実証プロジェクト向けのスマートメーターの実装は、2016年2月からニューヨーク・ブルックリンのプレジデント通りで始まった(図4)。通り沿いで10kWの太陽光発電システムを搭載している住宅が余った電力を融通する「プロシューマー」となり、通りを挟んだ別の住宅がその再エネを直接購入する「コンシューマー」となる実証実験を行った。2016年4月、世界で初めて消費者同士でブロックチェーンを使ったP2Pの電力取引に成功したという。

自宅に設置した太陽光発電で発電した電気を他の消費者宅とP2P取引
自宅に設置した太陽光発電で発電した電気を他の消費者宅とP2P取引
図4●ニューヨークのプロジェクトで設置されたスマートメーター(出所:日経BP総研クリーンテック研究所)
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 P2P取引に参加した住民は、「地域の住民が地域のレストランを使うように、顔見知り同士で電力を売買することで、地域でお金が回っていくのは大きなメリット」と評価する。

 LO3エナジーは、ブルックリンの実証に参加する消費者を増やし、規模を拡大してさらに効果を検証していく。

 同社によると米国でも他の2つの地域のほか、欧州、オーストラリア、そしてケニアでも電力のP2P取引の検討が進んでいるという。先進国だけでなく、ケニアのような新興国が関心を示すのは、送配電網の整備が進んでいない地域でも分散電源により比較的容易に電化が可能になり、請求システムなどの複雑な仕組みを構築する必要がないP2Pは、エネルギーの取引コストを低減できる可能性があるためという。

ドイツ電力大手と手を結ぶ東電

 国内でも電力のP2P取引に対する関心は高まり始めている。

 東京電力ホールディングス(HD)は2017年7月、ドイツの大手電力会社であるイノジー(innogy)と共同で、ブロックチェーン技術を活用したP2Pプラットフォーム事業に乗り出すと発表した。

 イノジーは2017年5月に、同プラットフォーム事業を推進する新会社、コンジュール(Conjoule)を設立。東電HDが300万ユーロを出資し、同社株式の30%を獲得した。

 イノジーは2015年以降、ドイツ・エッセンで一般家庭と地元企業が参加するP2Pプラットフォームの実証を進めてきた。「今回、事業化の見通しを得たことから、共同で事業会社を立ち上げ、本格展開していくことになった」(東電HD)という。

 世界では太陽光などの分散電源の発電コストが下がり、電力供給の柱に成長する道筋が見え始めている。発電事業者と需要家を直接結ぶP2P取引が拡大すれば、需要家が電気を選択できるようになるだけでなく、既存の小売電気事業者は中抜きされる可能性さえある。P2Pは電力のシステムや流通を大きく変えるポテンシャルを秘めている。

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