こうした結果には、英国ガス電力市場規制庁(Ofgem)も関心を示している。実際、同社はOfgemの支援を受けて、配電網の負担がどれだけ減り、託送料金をどの程度減らせるかを実証するプロジェクトをスタートさせるという。同社は蓄電池を併用することでさらに効果が高まると見ており、蓄電池とP2Pプラットフォームを組み合わせる検討もスタートさせる。実証実験の成果次第で、Ofgemは託送料金制度の見直しに反映させる可能性がある。
オープンユーティリティーのジョンストンCEOは「大規模発電所から需要家に一方向的に電力を供給するこれまで電力システムは、普及が進む分散電源に適した新しいシステムに改める必要がある。P2Pプラットフォームは将来の電力システムのコアになる可能性を秘めている」と語る。
ニューヨークでも始まった電力のP2P取引
電力のP2Pの試みが始まっているのは英国だけではない。
米国でも、マイクログリッド構築などのエネルギー事業を手掛ける電力ベンチャーのLO3エナジー(LO3 Energy)と、ソフトウエア開発を手掛けるコンセンサスシステム(Consensus Systems)が共同で、電力のP2P取引の実証プロジェクト「トランスアクティブグリッド(TransActive Grid)」を進めている。
同プロジェクトでは、仮想通貨の中核技術として知られるようになったブロックチェーン技術を電力取引向けに改良し、適用した。プロジェクト参加者には同ソフトウエアを搭載したスマートメーターを設置し、スマートメーター間をジグビー(ZigBee)やZウェイブ(Z-Wave)といった無線通信で結んで、取引情報を共有する。
スマートメーターは、需要家が保有する太陽光などの分散電源から系統網に逆潮流する電力量と系統網から受け取って消費する電力量をモニターするとともに、需要家間におけるP2P型の取引をサポートする。料金の決済には「Paypal」(電子メールアカウントとインターネットを利用した決済サービス)を使う。
ブロックチェーンは取引の確実性や安全性を保障するのに有効な技術として利用している。ブロックチェーンはトランザクション(取引)を記録する“台帳”(データベース)のようなもので、取引記録はすべての取引参加者の台帳に分散して記録されているため、データの改ざんは不可能とされる。P2P取引の手法には様々あるが、信頼性に優れるブロックチェーン技術はその有力株と目されている。
LO3エナジー社長のローレンス・オシニ氏によると、同プロジェクトのP2P取引は、ブロックチェーンをベースにしたソフトウエアと実際の電力の流れを管理するハードウエアを合体させることによって可能になったという。これにより、電力会社を介したこれまでの電力取引とは異なる、分散電源を所有する需要家同士が直接、電力を取引する世界の実現を目指す(図3)。