周波数調整用の“電源”として評価

 通常、蓄電池に貯めた電気は太陽光が発電しない夜間に利用したり、需要が高まる時間帯の「ピークカット」に活用したりすることで顧客の電気代を抑える(米国では利用kWが一定量を超えると電気料金が急上昇する)。これに加えて、VPP運用によって顧客の蓄電池から余った電気を集めて電力市場などで売却することで儲けを増やす。

 ステムが最初に蓄電池VPPを事業化したカリフォルニアでは、通常の卸電力市場(前日スポット市場)のほか、リアルタイム市場でも電気を売っている。リアルタイム市場は、州の送電網を管理する系統運用機関(CAISO)が送電網の周波数を一定に保つのに必要な電源を調達するための市場で、入札電源には不意の周波数変動にも対応できる機動性などが求められる。ステムの蓄電池VPP技術はそうした“電源”としての性能も評価された。

 ニューヨーク州では、ステムは商業施設など20社、80事業所に計14MWhの蓄電池を設置する計画を進めている。VPP運用もスタートさせ、同エリアの大手電力であるコンエディソンが運営するDR(デマンドレスポンス)市場への入札に参加する。2018年までに約1MW分を同市場で販売する計画だという。

 ステムのマーケティング・マネジャー、ガーベ・シュワルツ氏は「ピークカットだけでは蓄電池の活用は時間ベースで5%程度にとどまるが、残り95%の時間をVPP運用にあてることで蓄電池の価値を最大化できる」としている。顧客の電気の利用状況や蓄電池の充電状態、市場価格の予想などから蓄電池VPPの売却益を最大化する制御技術が同社の強みだ。ステムは蓄電池に貯めた余剰電力の売却益を顧客に還元することで、蓄電池導入の訴求力を高め、電力貯蔵ビジネスの拡大を目指す。

ドイツで実証され、米豪へと広がる

 VPPという考え方が登場したのは2009年頃。中でも大がかりな検討を進めたのがドイツだ。2009~13年にかけて政府主導で進められたスマートグリッド実証プロジェクト「E-Energy」の一環として取り組まれた。

 当初の狙いは、ドイツ各地に広がり始めた太陽光発電や風力発電、消費者(電力需要家)自身が非常用として持っていた小型発電機などの効率運用だった。ICTの進歩を背景に分散電源をネットワークで結んで集約し、仮想的な発電所に見立てるというアイデアだ。

 E-Energyなどのプロジェクトを通して、こうした手法が一般の発電所と同様、系統運用者や卸電力市場への電力供給、小売電気事業者への電力販売がビジネスとして可能であることが実証された。分散電源の所有者である消費者に代わって電気を集めて販売する「VPPアグリゲーター」と呼ばれる事業者がドイツで登場した。

 その後、VPPは対象が広がり、電力の販売先や調達先が多様化していった。販売先としては、機動的な電力供給が求められるリアルタイム市場などへの供給も可能になり、調達先としては分散電源だけでなく、蓄電池まで広がった。