経産省の報告書では、こうした総コストを温室効果ガス排出量で割って得られる金額を「カーボンプライス」(CO2換算1トン当たりの価格)と定義しています。2014年度のカーボンプライスは、全体で2万4801円/CO2トン。このうち炭素従量諸税が3692円/CO2トンを占めています。

 下の図は、燃料別に課税額を含めた燃料1単位あたりの市場取引額を、燃料1単位当たりCO2排出量で除した各国の価格水準を比較したグラフです。日本のカーボンプライスは、他の先進諸国と比較して高い水準にあり、特に産業用電力と天然ガスは世界最高水準となっています。

日本は既に高水準だ
日本は既に高水準だ
世界各国のカーボンプライス
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 第2に経済成長との両立を見てみましょう。明示的カーボンプライシングは、設備投資の喚起やGDP当たり排出量の改善、イノベーションの促進を通じて経済成長につながるとの指摘があります。一方で、企業の負担が増え、生産活動への投資を抑制してしまい、経済全体の総需要が拡大するとは考えにくいとの意見もあります。

 報告書は、「日本のカーボンプライスは既に高い水準にあり、公平な国際枠組みの確保なしに明示的カーボンプライシング施策を追加導入することは日本の産業の国際競争力に悪影響を及ぼし、経済成長を阻害する可能性がある」と指摘しています。カーボンプライシングの導入によるコスト増で、製造業など輸出産業の競争力が失われては本末転倒――。経産省の報告書からは、そう読み取れます。

日本だけでやっても効果は限定的

 第3に国・地域間制度格差の解消措置の問題があります。世界全体で見た時に、どこか1地域だけのカーボンプライスが高額になった場合、温室効果ガスの排出は抑制されずに、カーボンプライスが低額の他地域に生産拠点が移転する「カーボン・リーケージ」が起きます。つまり、カーボンプライスを引き上げる国や地域が出てきたとしても、それが地球全体での排出削減につながらないという考え方です。日本だけがカーボンプライスを高額にしても、地球規模での効果は乏しいというわけです。

 カーボンリーケージをもたらす原因となる地域間制度格差を解消するためには、例えば、化石燃料など炭素集約財の輸出地域における輸出時の内国税の還付と、輸入地域における輸入時の関税の上乗せといった国際調整措置が必要となります。

 世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(WTO協定)との関係で、カーボンプライスに関する国際調整措置が許されるのかは、不透明です。制度設計に際しての不確定要素と言わざるを得ません。

 こうした検証を経て、既に日本は国際的に見ても、高額なカーボンプライスを負担しており、国際水準との比較や既存施策による措置を考慮すると、現時点ではカーボンプライシング施策の導入が必要な状況にはないと経産省は整理したのです。