現在、経産省が制度設計を進めている「非化石価値取引市場」も暗示的カーボンプライシングの1つです。

 非化石市場は、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」(高度化法)に基づく新制度で、小売電気事業者は、調達する電気の非化石電源比率を2030年度に44%以上にすることが求められています。この目標達成のために、小売電気事業者は電源の非化石化を進め、それでも足りない場合は「非化石証書」を購入することで補います。

 さらに近年、企業が独自に経営管理上の指標として炭素価格を設定する動きがあります。気候変動対策に取り組むことにビジネス上のメリットがあるという考えに基づくものです。このような企業による自主的な炭素の価格付けは、「インターナル・カーボンプライシング」や「コーポレート・カーボンプライシング」などと呼ばれています。CO2削減が事業活動に及ぼす影響を定量的に把握し、意思決定に活用するのです。

 こうした動きが出てきたきっかけは、企業主導による世界最大の気候変動イニシアティブである「Caring for Climate (C4C)」が2014年に「カーボンプライシングにおけるビジネスリーダーシップの基準」を策定したことでした。今後はCO2排出量が企業経営におけるリスク管理手法の1つになり、企業と投資家との対話の手段として位置づけられる可能性が高まっています。

【質問3】結局のところ、日本が排出量取引や炭素税といった明示的カーボンプライシングを導入する可能性は高まっているのでしょうか。

【回答3】経産省の報告書は、「カーボンプライシング施策の追加的措置が必要な状況にはない」と結論付けています。当面、明示的カーボンプライシングの導入はないと見てよさそうです。

 大前提として、パリ協定は「プレッジ・アンド・レビュー方式」を採用しています。これは各国が実情に応じた貢献目標を策定し、その進捗を自ら検証する方法をいいます。前述のように、日本は地球温暖化対策計画を閣議決定しています。そして、この計画の中で、「全ての主要国が参加する公平な国際枠組みの下で、経済成長と両立させて実施する」と明記しました。

 この一文が、明示的カーボンプライシングの導入議論のベースになっています。そして、ポイントは3点。第1が国内のカーボン価格の水準、第2が経済成長との両立、そして第3が参加国・地域間の制度格差です。経産省は、この3点の検証を基に、「導入は必要ない」としているのです。順に見ていきましょう。

「本体」に「明示的」および「暗示的」を加えて構成される
「本体」に「明示的」および「暗示的」を加えて構成される
カーボンプライスの全体像
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 第1にカーボンにまつわるコストの水準を見てみましょう。化石燃料や電力などの需要家にとって、「エネルギー本体価格」に「明示的及び暗示的カーボンプライシング」を加算した金額が、化石燃料や電力の利用に伴う総コストです。