電力・ガス取引監視等委員会が10月、大手電力(小売部門)に余剰電力の市場投入を促す新ルールを定めた。これが守られれば、市場の活性化は大きな前進が期待できる。市場活性化は、大手電力の“自主性”に依存したこれまでの取り組みを改め、規制当局が主導する新たな段階へと進むべきだ。

 10月26日に開催された有識者会議(第23回制度設計専門会合)で、市場の活性化を目指す新たなルールが発表された。既に本誌が報じている通りだが(「市場投入される電力は最大4割増」参照)、要約すると次のような内容になる。

(1)北海道と沖縄を除く大手電力8社は、前日スポット市場での取引時点で、翌日の自社需要の1%を超える余剰予備力(想定外の需要の上振れなどに備える予備電源)はスポット市場に投入する。
(2)実需給の1時間前まで取引できる「1時間前市場」に残りの予備力を原則すべて投入する。

 実にシンプルなルールだが、現在の停滞した卸電力市場をこれ以上、効果的に活性化させる対策はない。日本卸電力取引所(JEPX)の流動性を決定的に欠如させていたこの1年半にわたる問題に対して、直接メスを入れる取り組みだからだ。

 そこで、新たなルールは決してこれまでの自主的取組の延長と捉えるべきではないということを市場関係者に訴えたい。

 これまでの取り組みは大手電力の“自主性”を尊重するあまり、あってはならないことを生じさせ、しかも改善までに長い時間を要してしまった。

 小売り全面自由化を機に採用された計画値同時同量制度の下、大手電力(旧一般電気事業者)の小売部門が必要以上に予備力を確保していた事実については、先に紹介した記事にある通りだ。

裏切られた直前の“決意表明”

 発端は2013年3月まで遡る。大手電力は、「自主的取組」と称して卸電力取引所のスポット市場に積極的、かつ自主的に供給予備力を投入することを表明した。その結果、同年4月以来、スポット市場の流動性は格段に向上した。

 取り組み開始からしばらくの間は卸電力市場、特に前日スポット市場における流動性は季節的な変動や発電設備の運転状況による影響はあっても、需給構造を根本的に揺るがす事態が起きるようなことはなかった。

 しかし、2016年4月の全面自由化と計画値同時同量制度の導入を機に需給構造は大きく様変わりした。

 新たなサービスの提供を目指す新規参入組の多くは、市場からの電力調達を柱としていた。旺盛な買い需要が発生する一方で、この時の卸電力市場は供給力の投入は頭打ちとなった。問題の発覚を遅らせたのは、大手電力の振舞いだ。

 全面自由化直前の2016年3月16日に開催された第5回制度設計専門会合。監視委員会による「卸電力市場活性化に係る事業者ヒヤリング」に対して、事業者側が回答するというものだった。

 回答事業者として東京電力(現・東京電力グループ)をはじめ、中国電力、九州電力を合わせた3社の責任者が招かれた。同時に他の7事業者については意見表明が資料で提出された。