実は、ここで紹介したアプローチは、金融取引の世界で利用されている「オプション価値」の考え方に通じる。

 オプション取引とは、デリバティブ取引の一種で、将来のあらかじめ定められた期日や期間に、現時点で取り決めた価格で売買する「権利」を売買する取引をいう。将来価格の変動リスクをヘッジするための取引で、その権利の価値を「オプション価値」と呼ぶ。

kWh市場の動向を無視して容量市場はあり得ない

 つまり、容量市場の導入は、小売電気事業者に将来の発電能力(電気を買う権利)の買い付けを義務付けるものと言い換えることができる。その買い付け価格(オプション料)を決めるのが容量市場だ。

 ただ、現在、国内で創設を検討している容量市場は、「集中型」と呼ばれ、電力広域的運営推進機関が市場管理者となってオークションを実施する方式が有力だ。その際、国全体で必要な電源の確保目標(需要曲線)を人為的に設定するのが大きな特徴で、発電事業者の入札で決まる供給曲線を合わせることで価格を決める。

 そのため、「電源の確保目標」の作成が決定的に重要になる。仮に確保目標として現存する全電源量に近い量を設定したとすれば、事実上、投資額の全額回収を前提とした総括原価方式と変わらないことにもなりかねない。過剰に目標が見積もられれば、必要以上に重い負担を小売電気事業者が、ひいては需要家が負うことになる。電源の確保目標の適正さを誰がどのように担保するかが重要だ。

 ここまで見てきたとおり、kW価値は現存するJEPXのkWh市場に内在している。kWh市場に表れる価格水準や価格変動と連動する形でkW価値は絶えず変化し、その時点で市場に売り出された電源のkW価値はkWh 市場から上げた利益の中に含まれている。

 kW価値は容量市場だけで独立して決まるものではない。金融の世界でも金利や為替など現物の市場価格の水準や価格の振舞い(ボラティリティ)を無視して、オプション取引が成り立つわけではない。容量市場がオプション取引の変形だとしたら、いかに人為的とはいえ電源の確保目標の設定には、現物のkWh市場の動きや水準を加味した金融理論的な評価も欠かせないだろう。

 また、容量市場の本格的なスタートの前に、スポット市場や先渡市場といったkWh市場の流動性の高め、健全な市場へと成長させることも重要だ。

 kWとkWhの両市場が健全でかつ整合が取れていることが条件である。さもなければ、電力に関わる複数の市場同士で矛盾が生じ、無用な裁定取引を引き起こす。あるいは、全国規模で効率の高い電源から順に利用していく広域メリットオーダーなど、他の制度に支障をきたす恐れもある(過剰にkW価値を支払えば、効率性に基づいた電源の本当の価値が見えなくなる)。

 その意味では容量市場も“市場”なのだ。求められる機能は適正な価格シグナルを発信することだ。ゆめゆめ、不要な電源の救済策などであってはならない。