高度成長が終わった成熟時代の電源投資や電源維持に必要な資金回収の仕組みを、受益と負担の関係を熟慮しつつ、自由市場のルールの下で決めていく必要がある。

 容量市場の導入で必要なのは、正しい理解と透明性の高い議論だ。電源の維持や投資にかかる資金は最終的には需要家が負担する。安定供給と負担のバランスは、需要家も含めた誰もが納得できるものでなければならない。

容量市場の独り歩きは危ない

 容量市場や容量メカニズムを導入した欧州や米国では、導入後も改善を目指した試行錯誤が続いている。それだけ、最適な容量市場の実現は一筋縄ではいかない難題と言える。

 エネ庁は電力の価値を、実際にエネルギーとして消費する「kWh価値」、発電能力(容量や規模)を表す「kW価値」、そして実需給時に発電機の出力を上下させて短時間に需給を一致させたり、周波数を調整したりする調整能力としての「ΔkW価値」という3つの価値に分けて整理している。これら3つの価値(機能)がそろって初めて、電力は品質や供給信頼性を確保できるという考え方だ。

 本稿ではまず、前日スポット市場に代表される現行のkWh市場においてはkWh価値だけでなく、先にも触れた通り、すでにkW価値が織り込まれて取引されている現実を確認しておきたい。

 というのは、容量市場を専門的、技術的観点から議論を深掘りしている広域機関の検討会の場においても、現行の前日スポット市場(kWh市場)と容量市場(kW市場)の関係性についてはほとんど議論していない。そのため、市場関係者間で共通の理解を共有し切れていないと感じる。

 この点をきちんと意識しないまま、あるいは十分に理解しないまま容量市場の議論を進めると、市場創設の意味や目的を捉え損ね、誤った市場設計や市場運営を招きかねないと危惧している。

 電力の価値をkWh価値とkW価値という2つの概念で整理してみても、実態として電力が提供するサービスに対して需要家が支払う対価は合わせて1つである。両者に関連がないと考えるのはいかにも不自然であり、また独立して存在するかのような誤解は禁物だ。そこでここでは、容量市場で想定されるkW価値の価格水準について、kWh価値との関連から推計する考え方を紹介する。

 電源のkW価値とはそもそも何か。ある規模(kW)の電源が存在しているとき、有効に稼働する機会が多いほど、そのkW価値は高いと考えるのが合理的だろう。電源の稼働機会とは、その電源を稼働させれば儲かるタイミングである。