ただ、電源投資には計画から稼働まで、数年あるいはそれ以上かかる場合がある。日々、変動するうえ、数年先の水準を予想しにくいkWh市場の価格だけを見ていても、いつ、どれだけの規模の電源を建設すればいいのか見当をつけにくい。

 効率の悪い老朽火力が徐々に退場していく一方で、新たな電源投資が滞ったとすれば、いざ電源不足が電力価格の高騰という形で顕在化しても、すぐに対応がとりにくい。だから、将来にわたる安定供給を確保する上で、“一定の投資回収予見性”を発信する市場機能が必要だというのが、資源エネルギー庁が容量市場導入を提起した理由である。

欧州では再エネ大量導入などが引き金に

 実際、自由化した複数の欧米の電力市場で、すでに容量市場をはじめとする容量メカニズム(市場機能によらない制度を含む広義の電源確保の仕組み)の導入は始まっている。

 太陽光や風力発電が大量に導入された欧州の電力市場では、限界費用がゼロか、ゼロに近い再生可能エネルギーが卸電力市場になだれ込み、最低でも燃料コストに見合う価格で約定しなければ赤字になってしまう火力発電由来の電力は約定量が激減した。

 その結果、収入を確保できない火力発電の廃止が相次ぎ、変動電源である再エネの過不足の調整役を担う火力発電までが不足を危ぶまれる事態に陥った。こうした状況が、容量市場や容量メカニズム導入の背景になっている。

 翻って、再エネの導入が欧州や米国の一部の州に比べて緩やかな日本は、そこまで事態は進行していない。そもそも小売り量に占める取引所取引の比率が圧倒的に少ない日本の場合、卸市場が電源建設費の回収の障害になっているとまでは言えないだろう。

 むしろ、全面自由化以前までに「安定供給第一」を掲げて大手電力が建設した供給力(電源)は、国内の総需要を大きく上回る。原子力発電がすべて止まっても供給力は不足しなかったほどだ。

 そのことはある意味で“見事”なことだが、今後、稼働原発が増えていくとしたら、加えて人口減少やエネルギー効率の上昇で需要そのものの減少が見込まれるなら、当面は余っている電源をどうするかの方が大きな問題になるとの見方も少なくない。

 大手電力の投資回収を支えた総括原価方式の仕組みは、全面自由化による競争が進展し、過渡的に残っている規制料金制度がなくなれば、完全になくなる。余剰電源をどこまで維持するのか(減らすのか)、維持費用を誰がどう負担するのか。
 
 予備的な電源が一定程度必要なことは疑いないが、過剰な電源の維持は負担の増大につながる。容量市場の設計や運営法の議論の裏側で、実は新規電源の投資のあり方だけでなく、現存している電源(資産)をできるだけ維持したい大手電力と、過剰な固定費負担を避けたい小売電気事業者の綱引きが始まっている。