市場を殺すのは自殺行為

 その意味で、ようやく成長し始めている前日スポット価格を混乱させている「予備力二重計上問題」や「当日余剰問題」は、価格シグナル機能を破壊する試みともいえる。関係者は、市場を巡るこうした行為や何気ない参加スタンスが、市場に期待される機能を壊す恐れをもっと意識して欲しい。

 予備力二重計上問題や当日余剰問題の背景の1つとして、当該事業者の供給力確保に対する過度な意識が見え隠れする。

 国内の電力ビジネス関係者は、高度成長時の古い概念にとらわれ過ぎていないか。日本における電力不足はすでに終わっている。安定供給は、電力の供給と調達のミスマッチさえうまく解消できれば、量的には十分に確保できる水準だ。

 東日本大震災の際に電力不足がクローズアップされたのは、一時的に電力インフラ設備に支障が生じ、安定的な電力供給を国が担保できなかったためだ。もちろん、電力不足が終わっているからといって、緊急時対応が不要だということにはならない。

 電力関係者の中にはしばしば、電力不足の回避に今も縛られているかのような思考や行動が見られるが、そのような単純な「安定供給信仰」は平時においてはもはや不要だ

 金融や商品などに比べて、電力は市場を支える制度やルールは整備の途上にあると言える。だが、その間も、大手電力か新電力かを問わず、積極的に市場を尊重し、育てる姿勢が求められる。市場は立場の違いを超えた公器で、価格シグナル機能が適正に働くことで、経済活動の合理性や社会コストの適正化が担保されるからだ。

 最近の政策の動向を見ていると、こうした足元における市場機能を強化するより、ベースロード電源市場や容量市場など、数年先までの電源の確保を優先するための政策や制度にかなりの時間とリソースを割いている印象がある。

 既に需要側のニーズと論理でビジネスを考えるべきステージにある。不必要なコストを負担するべきでなく、将来に向けて本当に必要な投資やコストに集中すべきである。

 日本における電力市場設計と制度設計のバランスについて、この国のかたちの将来形を描きつつ、今一度、考え直す必要があるのではないだろうか。

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