置き去りにしてはいけない電力改革の本質

 政策当局も現行のインバランス制度を設計した時点では、α値の変動幅が問題になるなどとは思ってもいなかったのではないか。むしろ、自主的取り組みを通じて相応の売り入札量がスポット市場に投入され、当日の全国需給の状況が正しく市場に反映されていれば、α値が「1」近辺に収束することを想定していた。

 つまり、通常時においてはインバランス料金が市場価格から大きく乖離せず、不可避的に発生してしまうインバランスについては小売電気事業者の大きな負担にならないことを念頭に制度は設計されていた。

 電力の全面自由化は大きな目的として、広域メリットオーダー(全国規模でコストの安い電源から効率的に利用すること)の追求を掲げていたはず。広域メリットオーダーよる社会コストの低減が需要家の利益につながるという考え方だ。

 一方、同時同量はあくまで事業者単位での需給管理の最適化にすぎない。目先の部分最適にこだわるあまり、現行のインバランス料金制度で目指していた本来の趣旨を置き去りにしている面があるのではないか。

 2016年度は1日前のスポット市場で売り入札量が不足していたのに、当日の実需給の断面では全国的には余剰インバランスだったというケースが非常に多かった。それゆえ、市場価格が高値でもα値は低めに抑えられるという現象が目立った。なぜ、実需給を反映せず卸電力市場がひっ迫してしまったのか。α値をいじる前に、全国の電力需給が卸電力市場に反映されない状況の解消にこそ、まずは関係者の努力が向かうべきではなかったか。

 本研究会で卸電力市場をウォッチしている限り、慎重さが先に立ってスポット市場への売り投入が手控えられ、当日になると太陽光発電に由来する電気が想定以上に発生し、電気が余るという日も多かったと推測される。その結果、本当に電気が必要な時間帯に電気が余ることになり、α値が低下する現象が繰り返されたのではないだろうか。この傾向に気が付けば、α値に予見性の「ある」「なし」を議論する前に、電力需給を司る送配電事業者などのオペレーションやマインドの見直しも議論としてはあり得たかもしれない。

 さて、こうしてみると広い意味で本当に“サボって”いたのは誰なのか。同時同量をしなかった新電力ばかりでなく、売り入札を投入するとして投入していなかった大手電力(真摯に対応していた大手電力もある)や、市場の動向を見切れていなかった系統の運営者や運営当局、並びに政策決定・監視当局など、広く卸電力市場関係者に反省すべき点があるのではないか。

 電力自由化は誰のためのものか。需要家の利益のためにほかならない。電力自由化に関わる関係者に期待されているのはより効率の良い、適切な価格による電気の製造と配送、需要家が満足するサービスの開発や提供であり、それに資する仕組み作りのはずだ。我々を含めて関係者は需要家に対する多いなる責任を意識しつつ、それぞれの立場から真摯に取り組みを進めていきたい。

■変更履歴
本文で「α値の変動幅が小さいことが問題になるなどとは思ってもいなかった」としていましたが、「α値の変動幅が問題になるなどとは思ってもいなかった」に変更します。本文は修正済みです。 [2017/7/10 11:45]