エネ庁や監視委員会は市場の異常に目をつむる?

 その後、2017年4月に大手電力が自社需要分の電力の一部をいったん市場に投入するグロスビディングといった新制度が導入された。そこで初めて、卸電力市場の売り入札量不足が完全に解消したといえる。また、ある大手電力の予備力二重計上問題が解消したのもこの4月からという情報もある。

 つまり、当初想定した「売り入札量の方が買い入札量より恒常的に多い状態」とはかけ離れ、市場に関するルールや設計を考える大前提が崩れていたわけだ。

 だが、監視委員会が定期的に市場の状況をレビューしている「自主的取組・競争状態のモニタリング報告」では、こうした市場の異様さがこれまで全く指摘されていない。あたかも「1年間、全く問題がなかった」かのような報告になっている。“監視”の目線が著しく欠けている。

 加えて足元では、インバランス制度見直し(α値とβ値の変更)の論議が資源エネルギー庁の「制度検討作業部会」で進んでいる。しかし、そこでも2016年度の市場の異常を認識した議論になっているとは思えない。

 だが、作業部会はインバランス料金の算定係数であるα値やβ値を修正する方向を打ち出した(「需給管理を“サボって”儲けた事業者が続出」)。

 ただ、2017年度の市場は2016年度とは異なる。グロスビディングの影響で当初予想をはるかに超え、市場での売り入札量は増加する傾向にある。にもかかわらず、2016年度のある意味、特異な状態だけを踏まえてインバランス制度を変えようとしている。入札曲線の足切りを「20%」から「3%」に縮める方向で議論が進行中だ。

 足切り幅を狭めればα値の振れ幅は大きくなり、供給力が不足して市場価格が上昇した際のα値の天井は高くなるだろう。その分、インバランス料金は事前に予見しにくくなるというのが改定の狙いだ。

 だが、本来の前提のように売り入札量が十分に存在する状態に戻ればどうなるか。むしろ、下値が2016年度より低下する傾向がより大きくなると考えられる。

 2017年6月6日の「第7回制度検討作業部会」で示された資料によると、足切り「20%」のケースでα値が下限に張り付いた時間帯が30分コマ数で2016年度は1年(計1万7520コマ)に4158コマもあった。「20%」の足切りが「3%」になれば、制度設計当初に懸念されていた恒常的に安いインバランス価格が発生する事態が頻出する可能性が大きくなる。

 そもそも「足切り」は特異な入札(異常な高値入札や安値入札)の影響をインバランス料金から排除するのが目的だった。α値算定の際の入札曲線の足切り幅を縮める今回の見直しは、インバランス料金の算定に、特異な入札の影響を強めることにつながる。

 制度やルールを見直すにあたって、市場関係者はもっと市場を観る必要がある。インバランス料金の分布や足切りがインバランス料金の上下限を抑えたコマ数からだけでなく、本来はその価格やコマで指し値された電力量(kWh)まで考慮して制度変更の影響を考えなければならない。