経済産業省が新電力などに電力の需給管理を守らせる「インバランス制度」の改定議論を進めている。その経緯や背景を報じた6月の記事「需給管理を“サボって”儲けた事業者が続出」には読者から多くの反響が寄せられた。他方、電力ビジネスの論客の集まりである日経エネルギーNext電力研究会からは「政府の議論では新電力の責任論が先行し、インバランス問題の背景にある卸電力市場の問題が置き去りにされている」との声が上がった。異様だった2016年の卸電力市場からインバランス問題の論点を掘り下げる。

 インバランス制度の改定問題を取り上げた「需給管理を“サボって”儲けた事業者が続出」は、インバランス制度の基盤となる市場そのものの問題について次のように指摘していた。

 「市場価格をベースとしたインバランス料金制度は、適正な市場価格の形成が大前提だ。実は現行のインバランス料金制度は『売り入札量が買い入札量よりも数倍多い状況』」(経産省資料)を想定して設計されていた。だが、2016年度の卸電力市場は売り入札量が買い入札量を下回る時間帯が頻出した」

 この指摘にあるように、現行のインバランス制度が有効に働くには、「適正な市場価格の形成が大前提」であったことを今一度、電力市場に関わる関係者には想い起してもらいたい。インバランス制度の改定は、インバランスを発生させた小売電気事業者の対応に問題があったからという議論にこれまで終始してきたように見える。根底にあった市場の問題がほとんど顧みられていないと感じるためだ。

「売り」が「買い」の数倍あることが前提だった

 今回のインバランス問題では、インバランス料金の算定に用いられる「α値」と「β値」と呼ばれる2つの係数の算出方法の見直しが議論されている。α値は市場価格に掛け算する乗数で、全国規模で発生したインバランス量を踏まえて卸電力市場における入札曲線を引き直すことで決定する。

 現行のインバランス制度のベースとなる考え方については、「第9回制度設計ワーキンググループ」(2014年10月30日)の資料に次のように記述されている。

 「現状のように、売り入札量が買い入札量よりも数倍多い状況の下では、系統全体で(インバランスが)余剰の場合のαは下落しやすく下限に張り付きやすいのに対し、系統全体で不足の場合のαは上昇しにくく上限に張り付きにくいと考えられる」

 当時懸念されていたのは、入札曲線の特性からα値が「1を大きく下回りやすい」という傾向だった。「実態上は特に下限値(対策)が重要」とされ、下限値に対する何らかの手当てをしないと健全なインバランス料金を形成できないと分析していた。
 
 そこで、全国で発生したインバランス総量に応じて入札曲線を引き直してα値を決める際に、主にα値が下がりすぎないようにする観点から「売りと買いの入札量のそれぞれ上下20%足切り」を設定した経緯がある。

α値は下振れしやすい
α値は下振れしやすい
インバランス料金算定係数(α値)の考え方(出所:経済産業省)
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