大手電力の需要減少が引き金

 3月以降、それまで高値傾向が続いていた東日本エリアは事態が好転し、いったんは落ち着いた。一方で、東日本エリアと同様にジリ高で推移していた西日本エリアの価格は一向に落ち着く気配がなかった。通常、東西間おける潮流(系統規模で見たときの電気の流れ)は西日本から大消費地の東京に向かって流れることが多い。それが、この冬は東日本エリアから西日本エリアへと潮流の向きが逆転した。

 1つには、関西エリアの新電力が市場調達を増やし、電力需要が相対的に高まった西日本エリアに潮流が流れ込むという状況の変化があったと思われる。これに連系線工事や西向きの計画潮流を確保する動きが重なり、電力価格の“西高東低”が顕著になった。こうした事態にバランス停止火力などが加わって引き起こされた売り玉不足は、西日本エリアでより深刻になっていたと見られる。

 実は、「売り玉不足の懸念」については、電力・ガス取引監視等委員会が昨年12月の時点で指摘していた。

 全面自由化以降、小売電気事業者は日常的に顧客の争奪を繰り返している。だが、そのことで電力の供給力が全体として不足することはない。あくまで顧客(需要家)がA社からB社に“移動”するだけだからだ。

 全体的な傾向としては、大手電力会社から新電力へと需要家が流れる動きが続いている。2016年4月に新たに自由化された家庭や小規模事業者などの「低圧」部門における新電力の販売シェアは4%にとどまるが、「高圧」や「特別高圧」と呼ばれる大口顧客の分野では12%にまで新電力のシェアは伸びている(2017年2月末時点)。

 その裏で大手電力は顧客が減った分、自社の供給力(電源)が余り始めている。この場合、監視委員会は「(余剰になった電源は)卸電力取引所や相対取引を通して市場に供給されるのが自然」だとしている。“自然”というのは、小売り量が減っても余った電源で発電した電力を卸電力市場で売ればその分、電力会社は利益を減らさずに済むはずだという理屈だろう。だが、実際には余剰電源が市場に投入されていない実態があり、その結果「定常的に売り玉が不足している状況が散見される」と監視委員会は指摘していた。

 なぜ、このようなことが起きてしまうのか。

 市場に投入されず、バランス停止させてしまった火力も、大手電力が初めから自社の需要が小さいことを想定できていれば、それを前提に市場投入を計画することは可能だったかもしれない。しかし、天候や気温の変化などのタイミングによっては不意の需要減少となり、急いで止めるしか手立てがないケースもあっただろう。つまり、本来なら市場投入できた電源だったにもかかわらず、売り投入が難しいという事態が生じていたのではないか。

 だが、こうした事態が頻繁に続くと、大手電力としては点検などによる「計画停止」の前倒しや「長期計画停止」(常態的な停止)への移行を当該電源で検討し始めてもおかしくない。それが、先のグラフが示す停止火力の増加に現れている可能性がある。そうなると取引市場では恒常的な電力の売り玉不足という事態に陥りかねない。

 この冬は南岸低気圧が通って気温が低下するたびに、あるいは週明け朝のオフィスの立ち上がりに合わせて、市場価格が20円/kWhを超えて高騰する時間帯が頻出した。新電力の中にはこうした高値の時間帯では計画通りに電力を市場から調達できなかったケースも相当に多かったのではないかと想像される。