公正な市場の実現が悲願
国内でも全面自由化の議論が始まった当初から、市場活性化は大きなテーマだった。有識者会議では、大手電力に対して市場への拠出を法的に義務づける“強制玉出し”を求める声も相次いだ。
こうした圧力に対して大手電力は事業者の自主性の尊重を求めた。そして、政府や新電力などに対して「予備力を超えて余った電源は限界費用で市場に投入する」という「自主的取り組み」を約束したという経緯がある。競争政策の趣旨に鑑みれば、“自主的”とはいえ、重いものだ。だが、その約束は「事件その2」で明らかになったように、堂々と反故にされてきたわけである。
自由化における市場活性化の重みや、これまでの議論の経緯に照らして、東電グループが行った予備力の二重確保や相場操縦は、公正であるべき市場をないがしろにする行為と言えるだろう。そして、市場支配力を有する大手電力のルールを無視するかのような振る舞いを許さないようにするのが、自由市場における規制機関の重要な役割のはずだ。
東電EPの相場操縦(高値投入)とみられる行為は全面自由化の半年後に業務改善勧告の対象になったものの、二重確保問題は1年にわたって事実上放置されてきた。この点は監視委員会の対応にも疑問が残る。これが、小売り全面自由化から1年の電力市場の現実だった。公正な市場の実現こそ、すべての事業者にとっての悲願である。