エナリスは電力業界で特別な存在感を放つベンチャー企業だ。2004年の創業以来、「部分供給」や「代理購入」など、既存の電気事業の隙間を突いた新しいビジネスモデルを次々と生み出してきた。2013年には東証マザーズに上場。ところが、順風満帆かに思えた2014年、不適切な会計処理が発覚し、創業社長らが引責辞任した。再建を図る中、2016年8月にKDDIとの資本業務提携が決まり、KDDIが約30%の株式を取得し筆頭株主となった。昨年10月、KDDIからエナリス社長に就任した小林昌宏新社長に、資本参加の経緯や再建の道筋を聞いた。(聞き手は山根小雪=日経エネルギーNext編集長)

小林昌宏・エナリス社長(撮影:的野弘路)
小林昌宏・エナリス社長(撮影:的野弘路)

――エナリスの不適切会計問題が明るみに出てから2年。KDDIがエナリスに資本参加したことで、ようやく落ち着いた感があります。エナリスとKDDIには、かねてお付き合いがあったのですか。

小林社長 電力全面自由化にあわせてKDDIが電気事業を始めるに当たり、需給管理をエナリスに委託したことから始まりました。電気事業への参入を真面目に検討しはじめたのは2014年夏頃のこと。家庭向けの電力サービス「auでんき」の立ち上げ準備をする中でエナリスのことを知りました。非常に面白い会社だな、と。

* 編集部注:「需給管理」とは電気の調達量と消費量を一致させるための制御のこと。小売電気事業者(新電力)は必ず行わなければならない。電気は貯めることができない性質を持つため、30分単位で需要と供給をピタリと一致させることが制度上、求められている。

 KDDIにとって、電気事業にどこまで自力で足を突っ込むのかが、当初の課題でした。競合の通信事業者でいうと、ソフトバンクは東日本大震災後、孫正義社長の号令の下、太陽光発電事業に参入しています。ですが、KDDIにはそういった背景もありませんでした。電気事業への参入は、「エネルギービジネスそのものをやる」のではなく、「お客様へのサービスとして電力も加える」という考え方でした。

 電気事業を手がける以上、需給管理は欠かせません。自前でやるのか、外部に委託するのかを検討しながら、外部に委ねられる会社はあるのか探しました。当時、「需給管理を受託できる」と回答してきた企業は10社以上ありましたが、KDDIはエナリスには段違いの能力があると評価していました。こうして、「auでんき」の需給管理をエナリスに委託するに至ったのです。不適切会計問題が発覚する前の話です。

――資本参加まで踏み込んだ理由は? KDDIはビジネス上で足りないものはM&A(買収・合併)によって補う会社というイメージがあります。

小林社長 エナリス前社長の村上憲郎氏(元グーグル日本法人名誉会長)がKDDIの田中孝司社長に相談したのがきっかけです。実は、資本参加は視野に入れていました。ですが、経営参加までは考えていませんでした。村上前社長からの要請を受けて決断したというのが、ことの経緯です。

 とはいえ、KDDIにとっては、エナリスが抱える様々な問題の整理がつくのかどうか、チェックする必要がありました。多少は時間がかかり、ほぼ先が見えたのが2015年8月でした。資本業務提携を発表したのは2016年8月のことです。

 電気は通信と同じインフラ系のサービスなので、お客様の解約阻止につながるだろうと考えていました。電力サービスが伸びれば、需給管理の仕事はボリュームが増えていきます。KDDIにとって一番大きかったのは、「電力が分かる人間を大量採用して自分の組織を太らせるかどうか」ということでした。需給管理が技術的に自前でできないと思っていたわけではありませんでしたが、KDDIがやりたいことはそこではないなと。

――池田元英・元社長夫妻が現在も保有している株式の行方は。

小林社長 元社長夫妻とは、「株式保有を10%以下にしていただく」とお約束させていただいています。とはいえ、個人の財産ですから、私達が何らか指示できる立場にはありません。「池田さんの株を引き取ってもいいよ」という話がきたら、ご紹介することになっています。