小売電気事業者の負担は間違いなく増える--。「容量市場」の導入議論をつぶさにウオッチしてきた大手新電力の幹部は厳しい表情を浮かべる。

 経済産業省は11月10日の有識者会議(制度検討作業部会)で、容量市場の創設に関連して導入する「経過措置」案を提示した。経過措置は小売電気事業者の負担軽減を目的に導入されるものだが、提示された案が実施されたとしてもなお、相当の負担がのしかかるおそれを冒頭の新電力幹部は感じ取ったのだ。

古い発電所も容量市場の取引対象
古い発電所も容量市場の取引対象
1969年に稼働した東京電力ホールディングスの水殿発電所
[画像のクリックで拡大表示]

 容量市場は将来にわたって電源不足を招くことがないよう、発電所(電源)の建設・維持に関する採算性の見通しを高める目的で立ち上げる新たな市場をいう(「『たなぼた利益』か否か、新市場の損得を読む」参照)。2020年に取引を始めることが2016年末までの議論で決まった。その後、新市場の具体的な設計を巡って議論が交わされてきたが、経産省は骨格を12月中にも固める方針だ。議論は大詰めに差しかかっている。

小売事業者の7割は影響を把握できていない

 にもかかわらず、現段階でも容量市場が小売電気事業者にもたらす影響についてはほとんど理解されていないといっていい。現行の卸電力市場が実際に発電した電力(kWh)を売買するのとは根本的に異なり、容量市場は発電能力に相当する「kW価値」を金額換算する。電気事業者であってもkW価値を具体的にイメージできる事業者はほとんどいないのが実態だろう。

 日経エネルギーNextビジネス会議が会員の小売電気事業者を対象に、10月に実施したアンケートでも、影響については「わからない」と回答した事業者が42%、「(負担が増えるか増えないか)どちらとも言えない」が33%に上り、7割以上の事業者が新制度の影響を測りかねている様子が浮かび上がった(「関電の重要事項説明は『独禁法上、OK?』」参照)

 容量市場は安定供給に全国で必要とされる電源の量と、発電能力1kW当たりの価格を決定し、規模に応じて小売電気事業者に支払いを求める。発電事業者は発電能力に応じて支払いを受けられるという仕組みだ。

 容量市場の導入が決定された昨年までの議論において、経産省は「中長期では小売電気事業者が負担する総コストは現行と同等水準に収斂する」と説明してきた。つまり、小売電気事業者は新たにkW価値(容量価値)を負担することになるが、その分は卸電力市場(前日スポット市場や1時間前市場)のkWh価格が下がるというのだ。このことが小売電気事業者の警戒心を和らげてきた大きな要因になってきたと言えるだろう。

 この説明は理論的には間違っていない。ただし、「中長期では」という条件が付いている。もっと言えば、容量市場と現行の卸電力市場が完全な自由市場として、“正常”に機能すればの話なのである。「いつ、総コストが同等水準に収斂するのか、だれかが保証してくれているわけではない」(新電力の幹部)。