それどころか、先の有識者会議で経産省が提出した説明資料には「容量市場の導入直後においては、卸電力市場のkWh価格に与える影響は限定的と考えられる」と明記された。つまり、小売電気事業者がkW価値を負担するようになっても、すぐにkWh価格が下がるわけではないことを経産省も認めた格好なのだ。

 容量市場の導入により、少なくとも初期の段階では、小売電気事業者の負担は純粋に増える。では、小売電気事業者が新たに負うことになる負担とはどの程度のものなのか。

 実は、小売電気事業者が背負う負担については概算を含めて、これまでの議論の過程では一切明らかにされていない。このことが容量市場を理解しにくいものにし、議論から小売電気事業者の関心を遠ざけてきた大きな要因になってきたのではなかろうか。

 そこで、有識者や電気事業者の取材を元に容量市場の負担を試算してみた。

100万kWの発電所は年間40億円の収入

 まず、参考になるのは既に容量市場を導入している海外の事例だ。

 経産省が議論の過程でしばしば引き合いに出す米国PJM(ペンシルバニア、ニュージャージーなど5州とワシントンDCを対象とするエリア)の場合、容量市場における直近の落札価格は1日当たり100ドル/MWだった(2019/2020年価格)。

 これを円換算で1年当たりに置き換えると、4088円/kW(1ドル=112円)になる。発電事業者は1kW当たりの発電能力を1年間維持する見返りとして4088円、100万kWの大型発電設備なら1基で1年に40億8800万円を受け取れる計算になる。

 経産省はモデルプラントの固定費の経年推移を、11月10日の有識者会議の場で参考資料として公表した。そのグラフから読み取れる減価償却費を除いた固定費は、LNG火力で約4000円/kW、石油火力で約6000円/kWという水準だ(正確な数値は公表していない)。市場価格は入札行動などで変わるため、固定費原価がそのまま反映されるわけではないが、PJMの市場価格4088円/kWという水準は、国内の容量市場価格を占ううえでも参考になると見ていいだろう。

 国内で必要と見込まれる発電能力については、電力広域的運営推進機関が公表している「供給力の見通し」が参考になる。小売電気事業者の支払いが最初に発生する2024年の「年間最大需要3日平均(H3)」の見込みは約1億6000万kWである(容量市場は4年後のkW価値を決める)。これに不測の事態に備えて確保する予備力(H3の8%)を上乗せした量を仮に全国で必要になる電源の確保量とみなしたとき、PJMの市場価格を掛け合わせると7064億円となる。