最重要は“容量市場効果”の早期実現
冒頭で触れた「経過措置」は、新市場導入初期の小売電気事業者の負担を和らげる方策として経産省が提案した。
経過措置の背景や考え方は複雑なので、ここでは詳細は取り上げない。当初は容量市場の存在を前提としないで建てられた古い電源に対するkW価値の支払いが、経済学上の「たなぼた利益(ウインドフォール)」に当たるか否かが争われた(「『たなぼた利益』か否か、新市場の損得を読む」参照)。
だが、経産省は見方が分かれたこの論争に決着をつけることなく、単純に小売電気事業者に対する「負担軽減策」として導入案を提示してきた。既に触れたように、容量市場導入後、直ちにスポット市場などにおけるkWh価格が下がる可能性は低く、小売電気事業者は負担だけが増えると見られるためだ。
議論の経緯を抜きにして、経産省案の“結論”だけをかいつまんで言えば、2020年の取引開始時に決まる2024年分の小売電気事業者の支払総額を、市場で決まる金額から既設電源分の42%を差し引く。控除額は毎年7%ずつ減らし、小売電気事業者は2030年分から市場で決まる全額を負担する。
初期の負担軽減策として十分かどうかは見方が分かれるところだ。
古い電源にはたなぼた利益になると見なす立場や、スポット市場などのkWh価格が容量市場効果で容易に下がることはないと見る新電力などには、実質6年の経過措置期間は短く、負担軽減(控除額)も不十分と映る。
一方で経産省案は2021~23年の3年分は支払いが発生しない(2020年の取引開始時点で2021~23年分の取引は行わない)。容量市場導入から間をおかず、kW収入を期待していた大手電力などから見れば、取り分は減ることになる。大手電力は経過措置の導入自体に難色を示している。
経過措置はほぼ経産省案で固まる見通しだ。しかし、何よりも重要なのは、容量市場立ち上げ後、可能な限り早期に容量市場効果を実現し、スポット市場などにおけるkWh価格を下げていくことだ。
スポット市場が大手電力の市場支配力により、全面自由化後も少なからず歪められてきた実態は、これまでしばしば報じてきた通りだ。
市場の活性化(取引量の増大)を推進する重要性は、容量市場の立ち上げでさらに強まったと言っていい。スポット市場や1時間前市場だけでなく、容量市場からも市場支配力を排除するルールや運用、監視は必須だ。
さもなければ、市場の“不完全さ”が、新電力を無用に破綻に追いやることになりかねない。経産省の電力市場政策が改めて問われている。