2016年4月の全面自由化以降、10兆円の電力市場に商機を見た企業が、続々と新電力事業を開始した。小売電気事業者の登録数は既に430社を超えている。

 だが、順風満帆な新電力は、さほど多くなさそうだ。取材をしていると、販売電力量は着実に伸びており、顧客基盤も悪くないのに、さっぱり儲かっていない新電力も少なくない。

 電気事業への参入時に多額のシステム投資をしていたり、日本卸電力取引所(JEPX)の価格高騰に振り回されて電源調達コストが上振れしたりと、厳しい事情もある。それ以上に、収益の差を生んでいるのが「需給管理」の巧拙だ。

 エナリス、エプコなどで需給管理に携わり、現在は新電力向けのコンサルティングを手がける村谷法務行政書士事務所の村谷敬所長は、「新電力の経営を悪化させる最大の問題は需給管理業務の巧拙にある。なかでも、バランシンググループ(BG)の選択を誤ると、いくら販売電力量を増やしても、まったく利益が出ないということになりかねない」と指摘する。

バランシンググループは代表事業者と参加事業者の“関係”が決め手
バランシンググループは代表事業者と参加事業者の“関係”が決め手
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数十社の新電力がBGを提供

 需給管理は、自前で手がける場合と、他社に委託する場合がある。さらに委託には、自社の需給管理だけを委託するケースと、大手新電力などが提供するBGに他の新電力と併せて参画する方法がある。

 自社の販売電力量が少ない場合、JEPXの最低取引量に満たず、市場を通じた調達を単独では行えないケースがある。また、電気事業の経験がない企業が参入する場合、需給管理ノウハウがなく、他社に委ねざるをえない場合もある。こうした時に有力な選択肢となるのがBGだ。

 BGとは、「複数の新電力で一括して計画を提出するグループ」を指す。BGを主宰する新電力1社が代表して、グループに参画する新電力の需給管理をまとめて行う。複数の新電力が1つのBGに参画することで、全体の需要が平準化され、電源調達コストを下げるといったメリットが出てくる。インバランスリスクの低減にも役立つ。

 BGを提供する新電力は複数あり、全面自由化前から存在していたビジネスだ。ただ、全面自由化後にBGの提供を始めた新電力も少なくない。全面自由化によって、電気事業の経験に乏しい事業者が多数、新規参入したことで、BG需要が一気に高まったためだ。現在では、数十社の新電力がBGを提供しているとみられる。