ほんの1年前、ガソリン価格は1リットル130円台後半だった。だが、この1年は高騰が続き、現在も150円近い高い水準が続いている。さらにトランプ米大統領によるイラン制裁が始まったと聞くと、さぞかし原油価格は高騰していると思われるかもしれない。

 しかし、実は原油価格は10月以降急落している。ガソリン価格もわずかに下がってきているが、原油価格の変動がガソリン価格に影響するまでにはタイムラグがある。それ以上に、ガソリン価格の大半は税金なので、原油価格の影響に気付きにくい構造になっている。

 11月12日、米国の原油先物価格指標WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は瞬間的に1バレル60ドルを割り込んだ。原油価格は2017年春頃から1年半ほど上昇トレンドが続いていた。今回の急落は、わずか1カ月で2017年12月の水準に逆戻りしたことを意味する。

 これまでの原油価格上昇トレンドの主な原因は、2017年1月に始まったOPEC(石油輸出国機構)とOPEC非加盟産油国による協調減産によるものだ。その結果、過剰だった原油在庫の調整が進み、2017年6月の1バレル42ドルを底値として、今年10月上旬には1.8倍の76ドルまで上昇した。それが1カ月もしないうちに59ドルまで下がったのである。

 原油価格急落の原因として、サウジアラビアやロシア、シェール革命によってシェールオイルの産地となった米国という3大産油国の増産など、供給面の要因を指摘する向きもある。だが、増産自体は継続的なものであり10月以降の急落の原因の説明にはならないだろう。

 最大の潮目は原油需要の将来見通しが弱気に転じたことにある。今年7月頃から10月にかけて、IEA(国際エネルギー機関)やOPECなどが、原油需要見通しを軒並み下方修正している。振り返れば、2014年6月に発生した原油価格の下落も、IEAによる需要見通しの下方修正がきっかけだった。

 一方、イラン制裁の影響に目を向けると、一部の国はイラン産原油を他国に切り替えるなど、米国による制裁に対応した行動をとっており、イラン産原油の輸出は減少しているとみられる。

 だが、他国による生産埋め合わせによって需給のバランス全体には、実はほとんど影響がない。しかも、米国は主要なイラン産原油輸入国に180日間の猶予期間を設けることを発表しており、制裁の影響は当面、限定的なものになるだろう。

 需要減少の要因は、インドやインドネシアなどの新興国需要の伸び悩みと言われているが、最大の懸念材料はやはり中国である。