全面自由化以降、ゲートクローズから実際の需給の場面にかけては、需給のズレを調整するのは大手電力の送配電部門(一般送配電事業者)の役割と整理された。これを、全面自由化以前に大手電力全体で確保していた「予備力」とは区別して「調整力」と呼び、送配電部門は「平年最大需要3日平均」の7%を調整力として確保する運用が始まっていた。

 大手3社については送配電部門の調整力とは別に、小売部門が独自に大きな予備力を抱えていたことになり、その分、卸電力市場に投入された電力が全面自由化以前に比べて減っていた可能性がある。

太陽光の発電量予測は大きくはずれることも

 中部電と関電の責任者はゲートクローズ後も小売部門が予備力を維持していた理由として、そろって「供給力確保義務」への対応を挙げた。

 だが、全面自由化後の制度を議論していた2014年9月には、ゲートクローズ後に大手電力の小売部門を含む小売電気事業者の供給能力が不足することがあったとしても、供給力確保義務違反には当たらないという整理が既になされている。ゲートクローズ後はあくまで送配電部門の責任なのである。今回の新ルールは、小売電気事業者の予備力の確保や行使に関する“細則”を改めて定めたということになる。

 では、なぜ、全面自由化後の新制度のもとで、これまで3社の小売部門は過剰な予備力を抱えて、手放そうとしなかったのか。

 9月2日、九州電力(送配電部門)は10~17時にかけて、「厳気象対応調整力」として需要家に節電を要請するデマンドレスポンス(DR)を発動した。非常時の調整力として通常の電源に代えて大手電力の送配電部門がDRを活用する制度は、2017年4月から始まっていだが、実際の活用はこれが初めてになる。

 だが、この日の九州エリアは、「厳気象」というほどの猛暑だったわけではない。実は事前の気象予測が外れ、太陽光発電の想定外の下振れに対応するため、需要家に節電を要請して需給調整を乗り切ったのである。ときには非常手段に訴えなければならないほど、太陽光の発電量予測は大きくはずれる可能性があることを示すエピソードと言えるだろう。

 実は、中部電の小売部門が予備力を手放さなかった理由の1つに、太陽光発電など自然変動電源への対応を挙げている。そして、そうした事態に備えるため送配電部門から小売部門に対して、小売り用電源の一部を送配電部門が使う調整力用に取り置きしておくよう要請していたことも明らかになった。