経済産業省は、東京電力グループや関西電力など大手電力8社の小売部門と、予備力(予備電源)を卸電力市場に全量放出するルールで合意した。これまで不透明だった予備力運用が改善すれば、市場活性化への効果が期待できる。

 「ようやく解決される方向に向かうことを評価したい」。卸電力市場の活性化を一貫して唱えてきた有識者会議のメンバーはこう述べた。

 電力・ガス取引監視等委員会は10月26日、「旧一般電気事業者(小売部門)の予備力確保の在り方について」と題した1本の文書を提示した。

 そこには、北海道と沖縄を除く大手電力8社は、前日スポット市場での取引時点で、翌日の自社需要の1%を超える余剰予備力(想定外の需要の上振れなどに備える予備電源)はスポット市場に投入する。続いて、実需給の1時間前まで取引できる「1時間前市場」に残りの予備力を原則すべて投入することなどが明記されていた。

 つまり、実需給時点で大手電力の小売部門が確保する予備力はゼロになる。予備力が完全に卸電力市場に開放される分、取引所の活性化が期待できる。

中三社がそろって過剰予備力

 「ようやく」の思いは、多くの新電力にも共通するところだろう。

 全面自由化以降、夏場や冬場には時間帯によってスポット市場への売り入札量がなぜか大きく減り、電力価格が高騰する事態がしばしば発生した。スポット市場からの電力調達に頼る多くの新電力の収益を揺さぶってきた。大手電力の入札がルール通り行われているのかを疑う新電力は少なくなかった。

 文書は監視委員会のほか、資源エネルギー庁、電力広域的運営推進機関を加えた3者連名で作成された。監視委員会幹部は「あくまで現行の『自主的取組』の枠内における追加の“お願い事”であって、法的性格はない」と説明する。

 「自主的取組」とは、大手電力が卸電力市場の活性化に貢献するための“約束事”という建て付けになっているが、市場への入札に関する事実上のルールとして扱われてきた。今回の「予備力確保の在り方」も、今後は事実上のルールとなる。監視委員会は今回の措置で、スポット市場の売り入札量は最大4割程度増えると見込む。

 大手電力の小売部門における予備力の新ルールは11月から段階的に運用が始まり、1年後の2018年11月の完全実施を目指す。その間、大手各社は年末までに提出する「行動計画」に沿って、確保していた予備力を減らしていく。

 大手電力の小売部門による予備力確保問題が明るみに出たのは、9月29日の有識者会議(制度設計専門会合)の場においてだった。

 夏場の市場価格高騰などをきっかけに大手電力の入札行動の調査に乗り出した監視委員会は、中部電力や関西電力の小売部門が予備力をスポット市場入札時点で想定需要の2~5%以上、市場取引終了(ゲートクローズ)時点で2~3%以上を確保していた実態を明らかにした(「中部電や関電も、過剰な電源抱え込みにメス」参照)。

 2016年4月以降、東京電力エナジーパートナー(EP)による「予備力二重計上問題」は明らかになっていたが、大手の中三社の小売部門が揃って過剰な電源を抱え込んでいたことがこのとき判明した。