だが、これはkW市場とkWh市場の両方が十分に競争的で、歪みや不正がない完璧な市場環境が前提だ。海外の市場に比べて流動性が低く(取引量が少なく)、支配的事業者である大手電力の入札行動の影響を受けやすいのが日本の電力市場の現実だ。「理屈通りにすぐさまスポット市場が安くなるとは到底思えない」(新電力幹部)といった不安を口にする新電力は多い。

 その意味でも、スポット市場など電力市場の活性化は引き続き重要な課題だ。そして、市場監視もいっそう厳格化することが求められる。

 現在、大手電力は余剰電力を当該電源の限界費用でスポット市場に投入することが義務付けられている。だが、2016年11月には、限界費用を上回る売り入札を繰り返していた東京電力エナジーパートナー(EP)が業務改善勧告を受けるなど、市場の健全化は途上にあると言っていい。
 
 大手電力はこれまで、「スポット市場では固定費が十分に回収できない」という不満を繰り返し訴えてきた。しかし、固定費回収の新たな仕組みを追加する以上、スポット市場では限界費用での玉出しは必須だ。そもそもスポット市場が十分に競争的であれば、限界費用での玉出しは最も経済合理的(儲けの機会が多い)なはずだが、これをわざわざルール化し、監視しなければならないところに日本の市場の未熟さがある。限界費用を上回る売り入札は支配的事業者による相場操縦(価格のつり上げ)に当たる。

 容量市場においても大手電力が支配的事業者であることに変わりはない。市場支配力を抑止するルールづくりや市場監視は欠かせない。

 kW価値の二重取り防止も重要なテーマだ。容量市場の設立は電気の価値を「kW価値」(発電能力)と「kWh価値」(エネルギー)に分けて扱う試みである一方で、実際の発電コストや電気料金の中では両者は混在している。容量市場から得たkW価値収入分は他の市場価格や取引価格から控除する実効的な仕組みが必要になる。

kW価格分を値引きしないと見合わない

 その点、今後立ち上がる新市場を含めて取引市場間の整合性を確保するのはもちろん、常時バックアップを含む相対取引の価格がどうなるのかも重要な視点だ。

 今回、経産省は「国全体で必要となる供給力(kW価値)は全て容量市場で取引する」「相対取引であっても、kW価値の支払いは容量オークションを通して行う」といった方向性を提示している。そうなれば、容量市場を通してkW価値の支払いを受けた発電事業者は、現行の相対取引価格(売価)から、受け取ったkW価値相当分を差し引かなければ、二重の支払いを受けることになってしまう。小売電気事業者にとっては負担が二重になる。

 この点に関して不安を口にする新電力幹部もいる。発電事業者と新電力(小売電気事業者)との関係では、「大手をはじめ発電事業者の方が強い立場にあるケースが多く、価格改定がスムーズに進むかどうか不透明」(新電力幹部)だというのだ。相対取引はあくまで事業者間の取り決めだが、経産省には取引価格からkW価値の適正な控除を促すガイドライン作成などが求められる場合もあるだろう。

 細部の設計次第では、新電力には思わぬ負担増につながる可能性もある。

 10月18日の広域機関での検討会では、小売電気事業者に対するkW価値支払いの配分法が論点として挙がった。容量市場で決まるのはkW価値の単価と全国規模で確保が求められるkWの総量である。そこでトータルの金額が決まることになるが、それをどう割り振るかだ。