発電所の「発電能力」を価値化して取引する「容量市場」の創設議論が大詰めを迎えている。だが、仕組みが複雑で、国内では馴染みのない取引のため、電気事業者の間でも理解が進んでいるとは言い難い。需要家や小売電気事業者にとって負担が増す可能性もあるだけに、制度改正の内容はしっかり押さえておきたいところだ。

 2020年度の取引開始を目指して議論が進んでいる「容量市場」。10月18日、電力広域的運営推進機関が主催する検討会では、市場で決まった「容量価値」に対する小売電気事業者への負担の求め方や支払いのタイミングがテーマに上った。

 「いよいよ事業に直結する実務領域に焦点が移ってきた。残り時間が少なくなる中、議論を急ぐあまり、想定外の負担を負うようなルールが不意に決まるのが一番怖い」。老舗新電力の幹部は不安を漏らす。

 容量市場のほか、「ベースロード電源市場」や「非化石価値取引市場」といった新市場を、電力システム改革の当面の最終段階である発送電分離に合わせて整備する方向が、政府審議会で決まったのは2016年末のことだ。3月からこれら新市場を具体化するための検討が始まった。経済産業省は今年末にも「中間とりまとめ」で骨格を固めるべく、ここにきて議論を加速させている。

 並行して創設が検討されている複数の新市場の中でも、もっとも分かりにくいのが、類似した取引が国内にはない容量市場だろう。そのことが、新電力の不安を呼んでいるという面も強そうだ。

「調達先未定」の新電力が増えた

 容量市場は電源(発電設備)の建設投資の回収見込み(予見性)を高めるために、電源の「kW価値」(発電能力)を取引する。これまで総括原価方式で決めた電気料金で、電源投資の回収が保証されてきた大手電力が、競争環境の変化をにらんで全面自由化前から導入を強く求めていた経緯がある。

「発電能力」に対価を支払う
「発電能力」に対価を支払う
東京電力フュエル&パワーの千葉火力発電所(出所:東京電力ホールディングス)
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 一方、経済産業省や安定供給を担う広域機関も全面自由化で供給力確保に不安を覚えた。

 電気事業者は毎年、10年先までの自社の需給見通しや発電所建設など「供給計画」の提出が義務付けられている。全面自由化が始まった2016年度は、「特に中小規模の小売電気事業者から、中長期の供給力を『調達先未定』とした計画が多数提出された」(広域機関幹部)。新規参入者の大半は、市場からの電力調達に頼り、自前の供給力や決まった調達先を持たない事業者が占めていたのだ。

 調達先未定の小売電気事業者が増えるということは、発電事業者から見れば長期相対契約が減ることを意味し、将来の収入の見通しが立ちにくくなる。こうした事態が電源投資の鈍化を招くと懸念した広域機関はこの年、経産大臣宛てに供給力確保の強化を求める意見書を提出した。これが、今日の容量市場導入議論の発端になっている。

 容量市場が立ち上がれば、小売電気事業者は自社の需要を賄うのに必要なkW価値(発電能力)の対価を需要規模に応じて支払うことが義務付けられる。その支払い単価を決めるのが容量市場だ。一方、発電事業者は容量市場で落札した電源の規模に応じて収入を得られる。この収入が、既存の電源の維持や更新、新規投資の計画立案を後押しするとされる。

 ただし、「電源の固定費のすべてを容量市場で回収できると考えるのは誤りだ。固定費の回収は他の市場といかに組み合わせて活用するかが鍵になる」と経産省幹部は明言する。