2015年には石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が「国際的なLNG市場の形成可能性の調査」を実施。2015年末には経産省が「LNGマーケット研究会」をスタートさせた。買い手である大手電力、ガス会社からも「仕向地条項をなんとか外したい」という声が上がり、国内の足並みは揃った。

 その後、2016年5月のG7エネルギー大臣会合で政府が、LNGの需給の安定化や価格の抑制・安定化につなげていくための「LNG市場戦略」を公表。こうした経緯を経て、公取委が2016年7月に調査を開始したのだ。

40年ぶりの「40条調査」で契約内容を丸裸に

 公取委の調査で特筆すべきは、約40年ぶりに「40条調査」と呼ばれる強制調査を実施したことだ。国内の買い主14社に対して、独禁法第40条に基づく報告命令を実施した。この14社で国内のLNG調達量のシェアは約96%。40条調査ということもあり、回答率は100%だった。

 「今回、仕向地条項や利益分配条項、テイクオアペイ条項にまで踏み込めたのは、契約書に記載された価格などの情報を公取委が精査したから。取引相手とは守秘義務契約を結ぶのが通例のため、40条調査でなければここまで踏み込んだ報告書にはならなかっただろう」(関係者)。

 JERAの佐藤執行役は、「今後、新規契約は絶対に仕向地条項は入れない。既存契約の見直しも進めていく」と意気込む。さらに、「これで終わりではない」と断じる。次なる目標はLNGの価格指標の形成だという。パイプラインガスの価格指標には、米国の「ヘンリーハブ」や英国の「NBP」などが存在する。だが、LNGには未だ取引市場がなく、相対契約が大半のLNGは、価格指標が存在しない。

 エネルギーの市場取引に詳しいスプリント・キャピタル・ジャパンの山田光代表は、「LNGは『調達』ではなく売り買いするOTC取引市場を作ることが大事。取引に制約があり、価格が不透明な現状は企業にとってのリスクだ」と指摘する。与信リスクの軽減やインフラ整備なども視野に、LNG市場のロードマップを構築することが急務だと言う。

 石炭に比べて環境負荷が低く、シェール革命によって賦存量も増大した天然ガスは、再生可能エネルギーの導入が進む中、電力の調整力としても重要性が高まっている。他方、日本にとってオーバーサプライになっている実情もある。

 東日本大震災後に供給力不足を補おうと、LNGの輸入量は増加した。その後、省エネ意識の高まりや再エネ導入量の増加で電力需要は減少傾向にあり、LNGは余っている。既存のLNG契約にはテイクオアペイなどの制約があり、一定量のLNGを引き取らなければならない。「大手電力の中には、やむなく発電コストの安い石炭火力発電所の稼働を落とし、LNG火力を優先的に動かしているところもある」(関係者)。市場取引によって、LNGの「量のリスク管理」をすることが不可避だ。公取委の報告書を契機に、LNGの調達環境を整えていくべきだろう。

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