「標準的な料金を適用して公正取引委員会から警告を受けるなんて・・」。大手電力会社の法人営業部隊に驚きが広がっている。公取が6月30日に北海道電力に出した警告の内容が、大手電力各社の商慣習に関わりが深い内容だったためだ。

 北電は高圧と特別高圧の法人顧客を対象に、いったん新電力へと契約を切り替え、再び北電と契約しようとする「戻り需要」に対して、「標準約款」の料金を適用していた。

 2016年4月の全面自由化を経て、家庭など低圧部門でも大手電力だけでなく、新電力を選択できるようになった。低圧は顧客数が多いこともあり、電気事業者各社は料金メニューを公開している。だが、高圧・特別高圧の法人は、業種などによって電力の利用形態がバラバラ。2000年の部分自由化以来、相対契約で料金を決めており、価格情報は原則、非公開だ。

 ただし、大手電力各社は標準的な料金を公表している。北電の場合、「電力契約標準約款」という名称で料金を公開していた。標準約款は原価を積み上げた料金で、相対契約の世界における定価のような存在だ。ここから交渉を通じて、「オプション契約」と言われる割引メニューを追加し、実際の料金が決まる。

 長らく地域独占であった大手電力会社は、依然として高い市場支配力を維持している。「営業部門は独占禁止法に対して非常に敏感で、日々の営業が独禁法に抵触しないか配慮している」(大手電力関係者)。特に、公取が独禁法および電気事業法上、問題となる行為を明示している「適正な電力取引についての指針(適正取引ガイドライン)」に留意していたという。

新電力への離脱を抑制する行為がアウト

 では、北電はなぜ公取から警告を受けたのか。

 理由は標準料金を適用していたからではない。戻り需要と新規顧客を区別して取り扱ったことが独禁法上の「差別対価」に当たると指摘された。

 大手電力関係者によると、「いったん離脱した顧客は負荷率など電気の利用形態が従来と変わっている可能性がある。しばらく標準約款を適用して様子を見るという慣習がある」という。ただ、今回の北電の場合は、戻り需要には、一律で標準約款を適用し、新規顧客には、オプション契約を追加した「最適な料金」、つまり相対的に安価な料金で提供するという営業方針を、全面自由化直前の2016年3月3日に「基本方針」として取りまとめ、営業部門に周知していた。

 独禁法に詳しい西村あさひ法律事務所の松平定之弁護士は、こう説明する。

 「一般論として差別対価の認定は、標準約款の適用の有無という形式論ではなく、いったん新電力に離脱した顧客を正当な理由なく、それ以外の顧客(新設の需要家など)と比べて不利な取り扱いをすることで、新電力への離脱の抑止効果が生じているかどうかという実質論で判断される。新たな販売方針を検討する際には、競争法や適正取引ガイドラインの視点を忘れず、必要に応じて専門家に相談するといった注意深さが必要だ」。

 実は、戻り需要に関しては、適正取引ガイドラインに「戻り需要に対する不当な高値設定等」という項目が設けられており、「大手電力が戻り需要に対して不当に高い料金を適用すると示唆することが、需要家の取引選択の自由を奪う」と明記してある。

 ある大手電力OBは、「こんな風に警告を受けるなんて残念としか言いようがない。かつての大手電力ならば、絶対にやらないようなミスだ」と嘆息する。「適正取引ガイドラインが、やってはいけないと例示している内容を、その通りにやっているのだから、公取にとっては実に分かりやすいケースだったろう」。

経営破綻した新電力大手、ロジテックの影響も

 こんな話がある。各エリアで圧倒的な強さを誇る大手電力各社だが、「新電力への離脱が10%を超えると目の色が変わる」というものだ。

 既に離脱が10%を超えたのは、東京電力グループと関西電力、そして北電だ。東電や関電の値引き攻勢の凄まじさは「大手電力が猛攻、電気代3割引きの衝撃」で報じた通り。大手電力の値引き攻勢はとどまるところを知らない勢いだ。全面自由化以前には考えられなかった緊張感が、大手電力の営業部門にあるのは間違いない。

 さらに、「かつて契約量を急激に伸ばしていた日本ロジテック協同組合の経営破綻の影響もある」と複数の関係者が明かす。北電が標準約款を適用した戻り需要には、日本ロジテックが2016年4月に破産を申請したことで、北電に戻ってきた顧客が相当数、含まれているというのだ。ロジテックは強烈な安値を武器に、企業や自治体を開拓した経緯がある。

 「激安新電力に出ていった顧客が戻ってきたときに、わざわざ最初から値引きするのか?という心理は十分に理解できる」とある新電力幹部は言う。

 北電の今回の対応の背景には、いまだかつて経験したことのない状況があったのだろう。だが、戻り需要と新規顧客を明確に区別する基本方針を取りまとめて対応していた点は、弁解の余地がない。

 北電は、「警告が出る前からヒアリングなどを通じて公取の問題意識を認識し、営業方針を見直した。既に戻り需要についてもオプション契約など最適な料金の提案を行っている」。他の大手電力でも、適正取引ガイドラインの読み合わせや勉強会を開催するなど、改めてルールの理解を深める取り組みが始まった模様だ。公正な競争はルールに則って行うことが絶対条件。北電の事例を教訓に、今一度、競争ルールへの理解を深めていく必要がある。