これまで温対法は、「1事業者につき1排出係数」と定めていた。事業者ごとに、調達したすべての電気に対する排出係数を計算して公表する。このため、「全電源平均」という表現を使う(なお、原子力や水力などCO2排出量ゼロの発電所を除き、火力発電だけのCO2排出量から排出係数を算定する場合もあり、これを「火力平均」と呼ぶ)。この排出係数の縛りによって、発電所種別の電力メニューは制度上、提供できなかった。

 だが、電力小売りの全面自由化を経て、「再生可能エネルギーだけの電気がほしい」といったニーズが出てくることは、監督官庁である経済産業省も認識していた。そこで、自由化に先立つ2015年夏頃から、1社で複数の排出係数を持てるように制度改正することが検討されてきた。制度検討には時間を要し、複数回の意見募集などを経て、2016年12月にようやく変更を知らせる通達を経産省が出した。

 こうして東電EPは水力100%の電力メニューを提供できるようになったのだ。

きっかけは分社化、安価な水力電気に付加価値

 東電EPの出口尚平・E&G事業部マーケット開発グループマネージャーは、「サービス開発のきっかけは分社化だった」と明かす。

 東電グループは2020年頃の発送電分離に先立ち、2016年4月に持ち株会社制に移行し、燃料調達・発電、送配電、小売りの3事業をそれぞれ事業子会社として分社した。このとき、水力発電は持ち株会社である東電ホールディングスの社内カンパニーであるリニューアブルパワー・カンパニーが受け持つことになった。

 「リニューアブルパワー・カンパニーの成長戦略を考えるうえで、保有する発電所の価値を高める方策を考えた」と出口マネージャーは言う。

 東電EPが新メニューで使うのは、東電グループが保有する一般水力発電だ。一般水力は、発電にかかる原価(発電コスト)が原子力に次いで安い。一方で、CO2排出量がゼロの再エネによる電気を使いたいというニーズはあるはず。ならば、温対法の変更を活用し、一般水力発電による電気だけを分けて販売することで、「CO2 排出ゼロ、再エネ100%の電気」として付加価値をつけようと考えたわけだ。

 温対法の変更によって、帳簿上、水力100%の電気は「排出係数ゼロ」として販売できるようになった。加えて、水力発電による発電量が、必ず販売電力量を上回るようにする仕組みも導入している。

 小売電気事業者は30分ごとの需要量と供給量を一致させる「同時同量」の義務を負っている。この考え方を使って、水力発電で発電する電気の量が30分単位で、必ず水力100%メニューの販売量を常に上回っていることを確認することで、「水力100%」を保証する。「この仕組みなら水力100%の電気とうたえると、監視委員会からもお墨付きを得ている」(出口マネージャー)。

 水力発電は冬場の渇水期に発電量が低下する。このため、実際の発電量の8分の1から10分の1程度しか、水力100%メニューとしては販売できないという。