根底にあるのは卸電力市場の“厚み”の問題

 全面自由化以前、新電力は需要の3%を超える不足インバランスには市場価格の3倍を支払い、余剰インバランスはタダで召し上げられた。旧制度は新電力に過度の負担を強い、大きな参入障壁になっていると新電力は訴えてきた。

 とりわけ規模の小さい新規参入者の場合、インバランスが発生しやすい。全面自由化を機に多くの新電力参入が想定された中、新制度ではインバランス料金が通常は市場価格から大きく乖離しないことを前提に設計した経緯がある。「にもかかわらず」というのが、有識者会議の多くのメンバーの気持ちだったに違いない。

 悪質なインバランスをなくすには、インバランス料金の水準を事前に予測しにくくすることが有効とされる。経産省は今秋にもα値やβ値の決め方を変更し、予見可能性を下げる。α値は算定時の入札曲線の除外幅を両端から3%程度にまで縮め、振れ幅が大きくなるようにする。エリア特性を反映させるβ値はこれまでのような定数ではなく、卸電力市場における「エリアプライスとシステムプライス(全国基準)の差額の1カ月の中央値」とし、1カ月ごとに事後的に決める方式に変える。

 ただ、それでも「予見可能性を完全に排除できるわけではない」(経産省幹部)。インバランス料金は2020年以降、発送電分離と同時に立ち上がる需給調整市場(一般送配電事業者が系統安定のための電源を調達する市場)の価格が適用されることが決まっている。現行の過渡的な制度で、過重なシステム変更を伴うような抜本的な改定は見送った。同省は提出された計画値や卸電力市場での取引の監視を強化し、悪意のあるインバランスを出した事業者には業務改善命令などの発動も視野に入れていく。

 一方で市場価格をベースとしたインバランス料金制度は、適正な市場価格の形成が大前提だ。実は現行のインバランス料金制度は「売り入札量が買い入札量よりも数倍多い状況」(経産省資料)を想定して設計されていた。だが、2016年度の卸電力市場は売り入札量が買い入札量を下回る時間帯が頻出した。

 もともと卸電力市場は厚みに乏しい難点がある。依然として、電力取引全体に占める市場取引量は非常に少ない。電力需要が高まる夏場や冬場に電力価格が高騰し、想定外の高値での調達を余儀なくされ、ダメージを受けた新電力も少なくない。そうした事態が、「新電力を意図的なインバランスに走らせた」(関係者)と指摘する声もある。

 意図的なインバランスはほめられた話ではない。そのために系統の安定化にかかる余分なコストは結局、需要家が負担することになる。一方でインバランス料金制度が健全かどうかは市場の活性化度合いが大きく左右する。このことは経産省も事業者も改めて認識しておくべきだろう。

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