大手電力による大手電力のためのネガワットでいいのか?

 東電EP以外の大手小売部門も同様の手法でこれまでの需給調整契約をネガワット契約に切り替え、送配電事業者にネガワットを供給していくと見られる。大手電力は大規模工場などネガワットを生み出す余力の大きい電力多消費型の顧客を数多く抱えている。自社の顧客が節電してできたネガワットなら、ネガワット調整金を支払う面倒もない。

 ネガワット調整金を負担する専業のネガワット事業者の場合も、「何とかビジネスとしては成立する見込み」(ネガワット事業者幹部)だという。必要時にいつでも発動できるように待機しているネガワットの容量(kW)に対して「待機費用」が、実際の発動の有無にかかわらず、契約期間(1年)にわたって支払われるためだ。

 だが、ネガワット調整金が不要なネガワットを集めやすいなど、優位な条件に恵まれる大手電力の小売部門が今後も大半を占める状態が続きかねない。

 そうなれば、ネガワットの競争は限定的になり、結果として、ネガワット導入の目的である効率的な電源投資や電源活用にも影を落とすことにならないか。通常の電気と同様、多様なプレーヤーの参入が望まれるところだ。

 さらに大きな問題は、小売事業者向けのネガワット供給が、ほぼ絶望的になることだ。

 経産省は調整力としてだけでなく、通常の電気と同様の売買ができる仕組みづくりにも力を入れてきた。この4月からは日本卸電力取引所(JEPX)で取引可能なルールやシステムも整備された。だが、今日まで取引の実績は全くない。

 小売電気事業者はその時々の卸電力市場の価格との見合いでネガワットを購入するかどうかを決めることになる。

 市場価格の上昇局面で競争力が高まるはずのネガワットにおいて、経費となるネガワット調整金が市場価格の実績と連動するとなれば、「まったく収益の見通しは立たなくなる」(ネガワット事業者幹部)。小売電気事業者向けでは、送配電事業者向けのような年間の待機費用収入も期待できない。このままでは小売電気事業者によるネガワットの活用は見込めない。

 大手小売部門が要求するネガワット調整金がネガワット普及のネックになっている。卸電力市場価格に連動させるネガワット調整金は果たして妥当なのだろうか。

 ネガワット取引を活性化させるには、政府が取引実態を精査し、ネガワット調整金のあり方を巡るガイドラインの見直しも含めた取引環境の改善が望まれる。