ネガワット調整金の算定を巡って対立

 ネガワット調整金は事業者間の交渉で決められるものとされている。だが、「恣意的な金額提示が横行するようだとネガワットは普及しない」(経産省幹部)ため、経産省は昨年改定した「ネガワット取引ガイドライン」で新たにネガワット調整金の水準に関する考え方を、大きく3つの選択肢として例示した。

①電気料金単価-託送料金単価
②卸電力市場の平均価格
③ネガワット発生時の卸電力市場の実績価格

 いずれも、ネガワットが置き換える電気の原価の考え方としては一理ある。だが、どれを選択するかで大きな違いが生じる。特に①と③の差は大きい。

 ①は小売電気事業者の売り上げから送配電事業者に支払う託送料金(送配電線の利用料=経費)を差し引いた金額を小売電気事業者の粗利とみなし、需要家の節電により失った粗利をネガワット調整金で補填するという考え方だ。ネガワット事業者のほとんどはこの考え方を支持している

 ところが、複数のネガワット事業者の話を総合すると、大手電力の小売部門(東電EP、中部電、関電、九電)はいずれも、③の卸電力市場の実績価格そのものか、部分的に反映させる形のネガワット調整金を要求してきたようだ。

 送配電事業者が調整力をネガワットで賄うのは夏場や冬場の需給ひっ迫時だ。だが、そのとき市場価格は高騰している可能性が高い。「(大手電力も)ひっ迫時などは市場から調達するケースも少なくないため、電力の原価の指標として市場価格を反映させるのが合理的」というのが大手小売部門の主張だという。

「待機費用」がなければ利益は出ない

 これまで大手電力は年間の最大需要を賄えるだけの発電設備を建設し、総括原価方式で算定した電気料金で投資を回収してきた。だが、年間にわずかな時間しかない最大需要に合わせた投資が本当に合理的だったのか。経済合理的に需要家が節電を判断できれば、投資効率は向上し、トータルの社会的費用を抑えられる――。これがネガワットのもともとの発想だ。

 「需給ひっ迫時だからこそ、通常の電気に比べてネガワットの価値(競争力)が高まると考えるべきなのに、同時に経費(ネガワット調整金)もつり上がるような構造では、何のためのネガワットなのかわらなくなる」(ネガワット事業者幹部)。「小売料金の粗利を補償する①の考え方が、大手小売部門の収益を損なうことになるとは思えない」と別のネガワット事業者幹部は不満を募らせる。