電力小売り全面自由化2年目の今年、法改正などを経てネガワット取引が本格的に始まる。期待されてきた新ビジネスが国内でも立ち上がった。だが、ここにきて参入を決めた事業者から「利益が出ない」という声があがり始めている。“ネガワット取引元年”の実像に迫る。

 「まったく納得できない」。複数のネガワット事業者がまるで口裏を合わせたかのように不満をぶつけてきた。

 電力小売り全面自由化2年目の今年、ネガワット取引が本格的に始まる。経済産業省は2年ほどかけてルールや制度を整備し、4月には必要な法改正を済ませた。これまで参入を検討してきた事業者にとっては念願がかなったと言えるはずなのに、“ネガワット元年”を素直に言祝ぐ様子はない。

 ネガワット取引は、電力会社の要請に基づいて企業や家庭が実施した節電(需要抑制=デマンドレスポンス)を、発電所が生み出す通常の電気(ポジワット)と等価と見なして売買することをいう。ある意味、革新的なアイデアであり、需要家が電力取引に参加する点でもこれまでの常識を覆す。

 経産省は制度創設に先立って実証事業を推進し、関西電力や東京電力エナジーパートナー(EP)といった大手電力のほか、NEC、アズビル、エナリスなどがそれぞれ複数社からなる事業者連合を組んで、ネガワット取引の技術的な検討を進めてきた。需要家に節電を要請し、電力を必要とする電気事業者に、電気の代わりにネガワットを販売するのがネガワット事業者だ。

 不満をぶつけてきたネガワット事業者は、昨年、一般送配電事業者(大手電力の送配電部門)が実施した電源公募に対してネガワットで入札し、落札していた。だが、4月に入って提示された「ネガワット調整金」と呼ばれる負担金が想定外のものだったのだ。

集まった原発1基分のネガワット

 送配電事業者は全面自由化後も唯一、地域独占が認められ、10社がそれぞれのエリアで系統運用を担っている。日々の業務の核になるのが電圧や周波数の維持だ。こうした系統安定化のためにあらかじめ確保しておく電源(発電機)を「調整力」と呼ぶ。

 大手電力が送配電、発電、小売りの一貫体制を取ってきたこれまでなら、調整力の準備や確保はあくまで“社内”の話だった。しかし、2020年には発送電分離が行われる。すでに全面自由化以降、送配電事業者は法的には中立の存在となっており、すべての発電事業者や小売事業者を公平に扱わなければならない。調整力もこれまでのような“社内調達”はできなくなり、昨年初めて、2017年度分の調整力について公募が実施された。

 このうち、現時点でネガワットでも対応できるのが、夏場や冬場のピーク需要時の電源不足に備えるための調整力(厳気象対応調整力)だ。昨年全国で募集された132万kWのピーク需要向け調整力のうち、95.8万kWはネガワットが落札した。これは、ほぼ原子力発電1基分に相当する。

 今回、ネガワットを調整力として調達すると決めたのは東京電力パワーグリッド(PG)、中部電力、関電、九州電力の4社の送配電部門だった。経産省の資料によると、4社が契約する合計95.8万kWのネガワットのうち、アグリゲーターと呼ばれる専門のネガワット事業者による落札が21.66万kWと全体の4分の1を占めたことが強調されていた。

 残りの4分の3は大手電力の小売部門が落札したもので、従来から大規模工場などと交わしていた「需給調整契約」がベースになっている。こちらは大手電力のグループ内で小売部門が送配電部門にネガワットを供給する構図になる(詳細は後述)。

 まず、専門のネガワット事業者が供給する場合についてだ。電気と等価に扱うネガワットは発電と同等の確実性が求められる。そうした観点から、需要家に節電を要請し、高い精度で需要抑制を実現するネガワット事業者の育成が鍵を握ると考えられてきた。経産省が公表資料の中で専門のネガワット事業者の落札量(21.66万kW)をあえて強調したところにもそうした意識を見て取れる。