卸電力市場はJERAのふるまい1つで行く末が変わる

 ただし、JERAの今後の経営によっては、日本の電力市場が深刻なダメージを受ける可能性があることも忘れてはいけない。

 既存火力の統合によって、JERAは日本の発電設備の5割を保有する巨大発電企業となる。海外の電力市場に詳しい有識者は、「独禁法上の観点から、海外ならJERAの誕生は当局が認めないだろう」と指摘する。JERAも「合弁契約の締結までに公正取引委員会などに説明する」(東電フュエル&パワーの佐野敏弘社長)と言う

 公取に判断を仰ぐ必要があるほど、JERAの市場支配力は大きい。JERAへの既存火力統合は、日本の卸電力市場に新たな寡占企業が誕生したことを意味する。

 だからこそ、JERAの取引実態を注視していく必要がある。JERAが“普通の電力取引”に邁進すれば、日本の卸電力取引の世界は桁違いに活性化する。他方、JERAがこれまでの大手電力の発電部門と同じように閉鎖的な取引に終始した時には、日本の電力市場は成長の道を絶たれるだろう。

 つまり、日本の最大発電事業者となるJERAの意思1つで、日本の卸電力市場は大きく揺さぶられることになる。ポイントは、「発販分離」だ。

 これまで日本の電力市場は、大手電力会社の小売部門が主導権を掌握してきた。大手電力各社の発電部門が発電した電気は、ほぼ100%、自社の小売部門が引き取る。こうして大手電力の小売部門は圧倒的な電源調達力を誇り、小売ビジネスで新電力を圧倒してきた。新電力の競争力が大手電力に依然として劣後する理由は、つまるところ電源の大半を大手電力が握っていることにほかならない。

 大手電力の発電部門と小売部門を分離し、発電部門が自社小売部門のために発電するのではなく、発電事業単体としての最適化を進める。そうすれば、自社小売に全量を販売するのではなく、より高く買ってくれる他の小売事業者へ販路を拡大していこうとなっていくはずだ。JERAはその先兵となるべきだ。

 JERAが、「事業の安定性から長期相対契約で電力を買ってもらいたい」(中部電・勝野社長)というのは、発電事業者として当然の発想だろう。ただ、長期相対で電力を購入するのが東電や中部電の小売部門だけかといえば、それは違う。電力小売りの全面自由化によって、国内には現在、400社に上る新電力が存在する。大手ガスや石油元売り、通信事業者など販売電力量を急速に拡大している新規事業者もある。そして、その多くが長期にわたり安定した電源の調達先を探している。