国内での競争に打ち勝つためには、強い発電所を持つことが第一条件だ。ここに規模が効いてくる。火力発電所は2~3年に1度、定期点検のため3カ月程度停止する。発電規模が大きくなれば、定期点検による発電量の減少、すなわち売電収入の減少による売上の変動が小さくなる。また、発電所の更新による長期の売電量減少にも堪えられる。

 勝野社長は会見で、「国内の発電所のスクラップ・アンド・ビルドを進め、最適な電源ポートフォリオを構築する」と説明した。老朽化した火力発電所を必要に応じて更新する。既にJERAがリプレース計画を発表している横須賀火力発電所(神奈川県横須賀市)が、燃料を石油から石炭に切り替えるように、燃料価格や国のエネルギー政策などをにらみ、望ましい電源ポートフォリオに近づけていく。

 そのうえで、世界最大規模となったLNG(液化天然ガス)の調達量を生かし、安価な燃料を活用する。単純に輸入するのではなく、海外における燃料トレーディング機能を織り込むことで、翻って日本向けの調達コストを押し下げようというわけだ。

 こうした考え方は、「アセット・バック・トレーディング」と言われる。JERAは海外での発電所保有も進める方針だ。国内の発電事業の縮小が見込まれるなか、調達した燃料を消費するための発電所を海外にも保有することで、調達の柔軟性を高め、リスクを低減する。

国内外の発電事業と燃料調達、燃料トレーディングを三位一体で

 今後、電力需要の減少に伴って火力発電所は余っていくだろう。卸電力価格が低迷し、収益性が悪化する懸念もある。「JERAは燃料から発電のバリューチェーンを押さえ、国内外の発電事業と燃料調達、トレーディングに三位一体で取り組む。JERAへの完全統合で事業規模を一気に拡大し、バリューチェーン全体で効率化して、ようやく現状の東電単体の発電事業の規模を維持できるかどうか」。あるJERA関係者はこう予測する。

 「現状の東電単体の規模を維持できるかどうか」という言葉には、JERAが現状の中部電の発電事業に相当するビジネスを失うことを織り込んでいる。今後の火力発電市場の縮小を、どれだけ深刻に受け止めているかがうかがえる。

 日本の火力発電事業は厳しい時代に突入しようとしている。大手電力の大半は、未だ原子力の再稼働を経営目標の一丁目一番に掲げる。「再稼働さえすれば経営は安定」と言わんばかりだ。だが、果たして本当にそうだろうか。中部電にJERA完全統合を完遂させた将来の危機は、一歩ずつ近づいてきているのではないだろうか。