最も大きなハードルは「福島リスクの遮断」だった。JERAの収益を上限なく廃炉や賠償に投じることになれば、中部電にとってのアライアンス効果は損なわれる。だが、昨年秋からの経済産業省の議論、そして3月22日には東電の再建計画「新々総合特別事業計画」の骨子が公表されたことで、福島リスクの遮断は一定、担保された。(「サプライズなしの東電・新計画、発表遅れの理由」参照)。

 会見に登壇した中部電の勝野哲社長は、東電の再建計画などを踏まえ「(福島リスクは)JERAの企業価値を高める面での制約はない。懸念は排除できた。過度な配当要求が出ないよう、合弁契約の締結までに配当ルールを詰めていく」と説明した。

 既存火力の統合に至るまでには、東電・中部電の内部から反対の声が聞こえることもあった。王者東電の内部には、JERAに燃料・火力部門を切り出すことに対して、「会社がバラバラにされると嫌悪感を持つ人も少なからずいた」(東電関係者)。

3月28日、ついに東電と中部電がJERA完全統合を発表した
3月28日、ついに東電と中部電がJERA完全統合を発表した
東京電力ホールディングスの廣瀬直己社長(左)、東京電力フュエル&パワーの佐野敏弘社長(中央)、中部電力の勝野哲社長(右)

 他方、中部電にとって火力発電は虎の子だ。1960年代以降、他の電力会社が原発新設に奔走する中、中部電は原発の新設に苦戦。中部電の原発は浜岡原発(静岡県御前崎市)しかない。原子力による安価な電力が大手電力の競争力の源泉と言われる時代、原発の保有規模で見劣りする中部電が活路を見出したのが火力発電だった。

 その火力を切り出し、業界トップの東電と統合する。このシナリオに中部電内部の不協和音が報じられたのは、一度や二度ではない。だが、いま振り返ってみれば、JERAへの完全統合に向けて、中部電幹部陣の意思にぶれはなかったと感じる。

「日本の火力発電市場は縮小する」という危機感

 東電、関電に次ぐ業界第3位、三男坊の中部電はかねて「やんちゃ坊主」だった。だが、2006年の「壺事件」を契機に、経営陣を刷新。近年では他の大手電力関係者に、「中部電は何をしようとしているのか読めないから恐い」とささやかれる存在になっている。(「東電が中部電と新会社設立へ」参照)。

 その中部電がJERAへの完全統合を結実させた背景には、並々ならぬ危機感があった。ある中部電幹部は言う。「どう考えても、今後日本の火力発電市場は縮小する。一定の規模を維持するためにはJERAへの統合が必須だった」。

 少子高齢化や省エネの進展によって、日本の電力需要が減少していくのは自明だ。さらに、再生可能エネルギーの普及は今後も続く。ある大手電力幹部は、「大手電力の発電電力量が半分になったっておかしくない」(大手電力幹部)とすら言う。

 しかも、発電所それぞれの競争力も重要になってくる。電力システム改革によって、大手電力を支えていた地域独占がなくなったことで、大手電力各社の発電所は地域内に電力を供給するだけでなく、他の地域にも供給するようになっていくだろう。これは全国大で発電所の競争が始まることを意味している。