狙いは東ガスの体力消耗、「敵に塩」も辞さず

 「本当は水面下で電気とガスの両方を扱いたいと考える事業者は少なくないはずだ」(新電力幹部)。都市ガス供給網が発達している東名阪では大手電力、大手都市ガスの双方が今後は電気とガスのセット販売に力を注ぐ。この地域で電気事業を展開している他の新電力も電気とガスのセット売りを手掛けたいと考えるのはむしろ自然だ。

 問題は都市ガスへの参入障壁が極めて高いことだ。発電所を建てて送電線につなぎ込めばいい電力とは異なり、商品となる天然ガスは海外からLNG(液化天然ガス)の形で輸入する必要がある。現時点でこれが可能なのは大手都市ガス、大手電力、一部の石油元売り会社に限られる。卸電力取引所のようなオープンな取引市場はガスにはなく、事業者同士の相対取引による卸市場も未発達だ。つまり、ガスの入手からして難しいのだ。

 加えてガス小売事業者には、家庭などで使用する給湯器やコンロなどガス機器の定期的な安全確認(保安業務)が義務付けられている。資格を持つ保安作業者の確保など、営業体制の面でもハードルは高い。

 こうした観点から注目を集めているのが、東電EPとニチガスが共同で打ち出した「都市ガス事業プラットフォーム構想」だ。都市ガス参入を検討している事業者に、東電EPが豊富に持っている天然ガスや、ニチガスがLPガス営業網に合わせて張り巡らせたガス保安のネットワークなど、都市ガス小売り参入に必要な資源を提供し、参入を支援するというものだ。

 東電EPとしては、プラットフォーム構想を介して都市ガスの卸先が増えれば販売量の増加につながる。だが、東電EPから都市ガスの卸供給を受けて小売りをするニチガスの立場に立てば、敵(小売りで競合する新規参入者)に塩を送るような側面もある。ゆえに実現を疑問視する見方もあるが、構想を推進するニチガスの幹部はこう打ち明ける。

 「新規参入者と営業エリアがバッティングすることがあっても、東ガスの需要を奪って体力を消耗させる方が先だ。他のLPガス事業者のほか、新電力や石油販売、不動産仲介事業者など潜在顧客を持つ事業者の参入を促して仲間を増やしたい。東ガス陣営と東電EP陣営に分かれた戦いになる」

 東ガスは都市ガスの卸先など34社とともに「ガスネット21」と呼ぶグループを形成している。これに対抗するのが、東電EPとニチガスの都市ガス事業プラットフォーム構想というわけだ。