新規参入はたったの14社

 ニチガスの都市ガス子会社である東彩ガス(埼玉県越谷市)、東日本ガス(千葉県我孫子市)、北日本ガス(栃木県小山市)はそれぞれ埼玉、千葉、栃木の一部を供給エリアとしてきた。これらに加えてニチガス自身も神奈川、埼玉、栃木の一部に都市ガスを供給している。ニチガスは中小都市ガスを買収することで都市ガス事業の拡大を目指してきた経緯がある。

 こうしたニチガス傘下のエリアでは、過去の経緯からいずれも東ガスから卸供給を受けてきた。だが、東電EPと提携するに当たってこの4月から、卸元を全面的に東電EPに切り替える。つまり東ガスは、これらのエリアで計32万軒分の供給先を瞬時に失う。地域独占の解消に合わせて、ニチガスの都市ガスエリアの需要家を東ガス陣営に取り戻すのがサイサンの役割だ。サイサンとニチガスは関東でLPガスの顧客争奪で激しく競り合ってきた間柄でもある。両社は都市ガスでも正面からぶつかり合うことになる。

 電力に続く都市ガス全面自由化でエネルギー大競争の第二幕が上がる。電力とガスの垣根はなくなり、競争は熾烈を極める――。と言いたいところだが、世間的にガス自由化はほとんど盛り上がっていない。

 電力とガスの違いは新規参入事業者の数の違いに端的に現れている。1年前の電力では自由化が始まる4月までに、新たに参入する小売電気事業者の登録は250社を超えていた。ところがガスの場合、既存事業者を除いて新たに参入を届け出たガス小売事業者は14社しかない(2月24日現在)。

 激戦が予想された関東エリアでは東ガスとニチガスの2社が新料金を発表したものの、肝心の東電EPは「東ガスが新しく構築したスイッチング(顧客の切り替え)システムの稼働などが落ち着くのを見届ける」(東電EP幹部)として、都市ガス小売りは7月から始めるというスロースタートぶりだ。

 あるガス会社幹部は「ガス自由化に対する消費者の認知や関心を、どう高めるかから始めないといけない」とこぼす。関係者からはガス自由化の先行きを案じる声も聞かれる。やはり、プレーヤーの少なさは大きなネックと言っていい。このままでは消費者の選択肢は広がらず、消費者が享受する自由化の恩恵も限られてしまう。