卸電力市場では大手電力が主な売り手となり、買い手は新電力という構図がある。自由化に基づく公正な市場価格形成の観点から、大手電力が市場支配力を行使しないことが、自由化初期段階における取引の基本ルールだ。

 だが、全面自由化以降、大手電力の行為がしばしば市場の公正さを歪めてきた実態は、本誌がこれまで報じてきたとおりだ。根底にはルールや監視、情報公開など競争環境の不備や未成熟がある。

 2017年12月26日、電力・ガス取引監視等委員会は有識者会議(制度設計専門会合)の場で、「予備力削減等に向けた行動計画」について報告を行った。

 昨年11月、大手電力の小売り部門が不測の事態に備えて確保する予備力(予備電源)の運用に関して新ルールの適用が始まった。

 以前から、大手電力は実需給前日に開かれる「スポット市場」や、直前の需給調整の場である「1時間前市場」で、不要になった予備力を市場に投入することがルール化されていた。にもかかわらず、中部電力や関西電力などが、余った予備力の市場投入を控え、ゲートクローズ(市場閉場)後も抱えたままだった実態が明らかになり、これをきっかけに予備力の市場投入ルールを厳格化したのが新ルールだ。

予備力投入は改善しているのに高騰の謎

 監視委員会からは、大手電力9社がいずれも新ルールに沿って予備力の市場投入を増やしていることが報告された。

 西日本の電力価格に大きな影響力を持つ中部電と関電はいずれも、昨年10月末段階ではスポット市場入札時点で自社需要の5%分を確保していた予備力を、11月末には3%に減らしたとしている。そして、2018年11月までに1%に減らす計画を表明した。

 これが事実なら市場への玉出し(売り入札量)は、今冬は昨冬に比べてむしろ改善されていておかしくない(エリアごとの売り入札の実態は非公表)。謎は一層深まったと言っていい。

 ある老舗新電力幹部はこう言う。「我々も様々な角度から高値の原因を探っている。仮に開示情報通りに電源が稼働していれば、各電源の出力や想定限界費用などを用いた分析ではここまでの高値にはならない」

 ここでいう「開示情報」とは、日本卸電力取引所が運用している「発電情報公開システム(HJKS)」を指す。電力の市場価格に影響を与える電源の稼働状況を発電ユニット単位で公表しているもので、定期点検などによる「計画停止」のほか、故障などのトラブルによる「計画外停止」がリアルタイムで確認できる。

 つまり、ここで確認できる停止電源以外が「稼働電源」という扱いになる。ただ、稼働電源も定格出力でフル稼働しているかどうかまではわからない。そして、もう1つわからないものがある。「バランス停止」だ。

 バランス停止とは、経済的な理由などで止める電源を指す。通常、電力会社は1週間単位で翌週に稼働させる電源を決めている(週間計画)。蒸気タービンを用いる火力発電の場合、水を沸騰させて稼働可能な状態にまで起動させるのに数時間から2日程度かかるとされる。加えて、発電しなくても起動させるだけで燃料を消費する(コストがかかる)。

 従って、翌週の想定需要が低いと見込まれるなら、あらかじめ停止を決めてしまうのだ。1週間単位の停止と言い換えてもいい。通常なら、需要が小さい春・秋にバランス停止は増える。