ところが、以前に比べて夏や冬の需要期もバランス停止火力が増えているおそれがある。

 日経エネルギーNextは2017年6月22日公開の「油断禁物、電力市場波乱の兆し」で、バランス停止火力の増加が需給逼迫時の市場高騰要因になる可能性を指摘した(編集部注:結果として昨夏の電力市場は高騰した。電力広域的運営推進機関が主導した小売電気事業者に対するインバランス抑制指導なども影響したと見られる)。

 この記事では、HJKSの開示情報を分析して中部電や関電などによるバランス停止火力の増加を推定したが、現在もバランス停止に関するリアルな情報は公開されていない。計画停止や計画外停止が市場に影響を与える情報として扱われているのに対して、バランス停止の実態や電力市場に及ぼす影響を明示的に示すデータはない。

 だが、複数の新電力関係者が「バランス停止火力の影響は無視できない」と指摘する。そして、ある新電力幹部は「大手電力の一部は自社小売り部門の需要の減少に合わせてバランス停止を増やしている可能性がある」と推測する。

求められる情報公開と運用ルール

 全面自由化以降、大手電力と新電力は熾烈な小売り競争を展開しているが、ここまでは新電力が継続的にシェアを伸ばしてきた。

 2016年4月に新たに自由化された家庭などの低圧部門は2017年9月の段階で新電力のシェアは6.9%に達した。特別高圧・高圧部門を含む総需要に占める新電力の割合は、全面自由化前の5%程度から11.7%に増えた。

 つまり、全国の電力需要が減少に転じる中でシェアも奪われる大手電力は、自社の顧客向け供給量は相当に減らしているとみられる。とりわけエリア需要の17.9%が新電力に移った関電などでその影響は大きい。

 自社の顧客への供給量が減った分、発電設備の停止を増やすのは一見、合理的に見える。だが、全体の需要がそこまで落ち込んでいるわけではない。大手電力側の都合で決めたバランス停止で市場に投入される電源量が減少し、それが市場価格高騰の要因になっているとしたら、動機はどうあれ、結果的には市場支配力の行使に当たるのではないか。

 むしろ、大手電力はバランス停止を増やさずに市場に投入し、発電事業者としてビジネスの拡大を指向すべきだ。

 いずれにせよ、西日本の電力市場はおかしい。異常事態が2カ月も続いている。監視委員会は、バランス停止の実態を含めて異常な価格高騰の背景を早急に調査、公表し、正常な市場を取り戻す改善策を打つ責任がある。

 経済産業省は、供給力確保を目的に、全国の発電設備の固定費を安定的に回収する容量市場を2020年に立ち上げるべく、制度設計を進めている。小売電気事業者が容量市場を通して全国の電源の固定費を負担するルールを導入しようとする一方で、電源の大部分を保有する大手電力が自己の都合だけで電源を運用することが許されていいはずはない。

 少なくともバランス停止の実態は公開されるべきだろう。大手電力側に立てば、自社の顧客以外の需要を想定して電源を稼働させるには、燃料調達や収益確保の考え方を見直すなどの手間を要するかもしれない。かといって、今のままでは現存する供給力の有効活用は進まない。欧州では、市場監視強化の一環として、スポット市場価格より限界費用が安い火力が停止していた場合、事情を聴取するなど、不適切なバランス停止の抑止にも力を入れている。

 全面自由化以降、電力市場は何度も大手電力の恣意的な電源運用で歪められてきた。新電力は、情報もルールも見えないところで想定不能な市場リスクにさらされ続けている。このような事態が続けば、最終的には需要家の負担が無用に増えるおそれさえある。監視委員会は「市場の番人」としての自覚を持つべきだ。