医療を担う人材について感じるのは、「保健医療の価値」を語れる医療者が少なくなったということです。例えば、なぜ国民皆保険制度が必要なのか、なぜ健康・医療という領域は保険制度で支える必要があるのか、その説明責任を果たせる人がほとんど見当たりません。結果として40兆円という医療費の「額」だけが独り歩きし、糾弾されてしまっています。
診療報酬が付くサービスに価値があり、そうでないものには価値がない。そうした価値観がまかり通るようになってから、医療にひずみが出てきたのではないでしょうか。確かに、医療の世界でもプロフィット(利潤)の追求は必要です。でもそれとは別の医療の価値がどこにあるかを語れなくては、次世代の医療を担う人材にはなれないと私は思います。
医療とビジネスの両方の言語が分かり、両者の間を橋わたしできる。そういう人材を育てることが、私が主宰しているゼミの狙いです。
医療の専門職に就いている人材が、ビジネスのことも分かって経営陣にも意見を言える。または、その逆ができる人材がいる。そういう組織こそが健全ではないでしょうか。
例えば今の介護業界を見わたしてみると、介護職員はまだワーカーとして働く形が多い。介護職員が経営にも口を出すというケースが果たしてどれほどあるでしょうか。
薬局にはこれから、薬剤師とそうでない人材、そして経営者が本当の意味で連携できる組織を目指してもらいたいと思っています。ヘルスケアの価値は何かという議論をしたとき、経営者の言葉に「医療者の感覚からはそれは違います」と反論できるような人材が組織の中にいる。そんな薬局がどんどん増えてほしいと願っています。