「供給者目線ではいけない。顧客に価値を感じてもらえる事業モデルを構築し、それをマネタイズできなくては、薬局は生き残れない」。三津原氏もこう同調する。では、利用者目線に立ったサービスのあり方を、山本氏はどのように思い描いているのだろうか。

 薬局はこれまで、患者という顧客に対して「待ち」の姿勢でいたように映ります。薬剤師という専門家がいる場所に、顧客の方から赴かなければいけなかったわけです。こうした事業形態は、イノベーションの理論から言えば駆逐されていく可能性が高い。

 ある場所へ行かなくては手に入らなかった価値を、顧客の手元へ届ける。米Amazon.com社が起こしたのはまさにこうした破壊的イノベーションでした。これにより物流のあり方は大きく様変わりし、旧来の小売業は存亡を危うくされているわけです。

 医療にもこうしたイノベーションが起こるべきだと私は考えています。医師は病院で患者を待っているだけの存在で果たしていいのか。これからは、ケアの対象を病院の外に探しにいく姿勢が求められるでしょう。

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 医薬品の提供に関しても同じことが言えます。薬局が持つノウハウを、いかに安く手軽な方法で顧客のもとで実現するか。それが問われるようになる。破壊的イノベーションによる価値創造が、薬局にも必要なわけです。これを通じ、「薬局」と呼ばれてきた存在は大きく様変わりすることになると思います。

 医薬分業というこれまでのスタイルについても、顧客から見た価値という視点からは見直すべき点があるかもしれません。医療と医薬品は非常に近い存在だから、両者を分離せず共同でオペレーションした方が利用者にとっては都合がいい。そういう考え方があってもおかしくありません。

 これからの医薬品流通のあり方をともに考えていくパートナーとして、調剤薬局と流通事業者がより密接に組むという方向もあり得ます。もちろん、外にパートナーを求めるのではなく独自の進化を目指す道もある。

 これまで“医薬品流通の関所”として機能してきた薬局が、こうした新しい道のいずれかを選択することを求められる日は近いのではないか。そう私は感じています。