2016年度診療報酬改定で算定対象となった「電子お薬手帳」。今後の利用拡大が見込まれる中、単に紙のお薬手帳を電子化しただけではない価値をどう提供していくのか。その真価が問われている。大手調剤薬局の日本調剤が自ら開発した「お薬手帳プラス」が目指すのは、薬局と利用者の距離を近付けるツールとしての役割だ。

 紙ではなくスマートフォンなどの電子デバイスを使ったお薬手帳、いわゆる「電子お薬手帳」。現在、90種類ほどの電子お薬手帳がスマホアプリのダウンロードサイトに登録されている。

 登場の端緒になったのは、2010年5月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が発表した「新たな情報通信技術戦略」。この中で、「個人が自らに対する調剤情報等を電子的に管理する仕組みを実現する」と明記されたことにある。その有用性の一面があらためて評価されたのが、2011年3月の東日本大震災。被災者の多くが普段使っている紙のお薬手帳を失った一方で、携帯電話機だけは多くの人が持って避難した。それをきっかけに、電子お薬手帳の開発が勢いづいた。

 その後、データの標準化を図るために保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)が「電子版お薬手帳データフォーマット仕様書」を公表。2015年11月には、厚生労働省が電子お薬手帳のガイドラインとも言える通知「お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について」を発行した。ここには、提供薬局は利用者が1つのお薬手帳サービスを利用するよう促すこと、運営事業者は電子版お薬手帳データフォーマット仕様書に従うこと、といった内容が示された。

 そして、電子お薬手帳の利用拡大を後押しすることになったのが、2016年度診療報酬改定だ。紙媒体と同等の機能を有する場合には、電子お薬手帳についても算定上、紙媒体と同様の取り扱いとすることが盛り込まれた。これを受けて、薬局側も対応に積極的に乗りだし始めた(関連記事)

開発元はさまざま

 電子お薬手帳の開発元はさまざまだ。大別すると、調剤薬局、ITベンダー、メディア、薬剤師会といった団体などがあり、それぞれが独自の特徴を打ち出している。こうした中で、「自動連携機能」を特徴とする電子お薬手帳が、調剤薬局大手の日本調剤が自ら開発した「お薬手帳プラス」である(図1)。

図1 日本調剤の電子お薬手帳「お薬手帳プラス」のトップ画面(左)。同社の店舗で受け取った薬の情報は自動記録される(右)
図1 日本調剤の電子お薬手帳「お薬手帳プラス」のトップ画面(左)。同社の店舗で受け取った薬の情報は自動記録される(右)
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 自動連携機能は、利用者が操作をすることなく調剤情報を自動的に電子お薬手帳に記録する機能(本会員のみ)注)。厚生労働省の通知では「提供薬局等は、利用者の求めに応じて少なくともQRコードにて情報を出力すること」と示されている。このため、多くの電子お薬手帳には利用者がQRコードで調剤情報を読み込む機能が実装されている。お薬手帳プラスは、このQRコードによる読み込み機能に加え、日本調剤の店舗で受け取った薬の情報であれば自動的に記録してくれるというわけだ。

注)お薬手帳プラスには、本会員と準会員という会員登録のカテゴリーがある。準会員はメールアドレスを登録した会員で、お薬手帳としての基本機能を利用できる。一方、本会員登録をすれば、すべての機能が利用できる。