スマートフォンやウエアラブル端末を社員の健康管理に活用する。健康経営の推進に向けて、そんな試みを始める企業も出てきた。社員の健康管理へのICT活用について、具体的にはどのようなアイデアが考えられるのだろうか。

伊藤氏 社員の健康管理にICTをどのように活用できるかについて、1年ほど前からかなり真剣な検討を始めました。どういう社員を対象にどういう形で使うのが良いのか。ICTで見える化した結果を、どのようにフォローしていくのか。こうした環境整備がまずは重要だと考えています。ツールありきで一挙に導入しても、きっとうまくいきません。

 忙しくて診療所に来る時間が取れない社員や、海外駐在員。ICTでの支援がいち早く必要なのは、こうした社員ではないかというのが今の考えです。

 例えば最近は、飛行機の機内もインターネット環境が整っています。機内でスマートフォンアプリから健康管理に関する情報を見ることができて、気になる項目を押すとさらに詳細な情報が見られる。そういった誘導の仕組みをうまく用意できればと考えています。

脇氏 それ、いいですね。出張中の機内は自分の健康のことを考え、普段の生活を見つめなおす時間にする。そういう社員が増えて全社的な取り組みに広がれば、健康意識の向上にすごく役立ちますよね。

 今後は、海外での仕事が中心となる社員には、遠隔診療や遠隔モニタリングといった手法も活用できるのではないでしょうか。アプリに記録したデータを遠隔で医師に診てもらい、生活改善のアドバイスを得る。これだけでも効果は大きいですし、こうした初歩的なことから使える手段をどんどん使っていけばいいのだと思います。

伊藤氏 対面診療を受けにわざわざ診療所に来なければいけないのは、働く場所などが多様化する中、忙しい社員にとって負担が大きいんですよね。医師と一定の情報共有ができていれば、こういう時はこうすればいいという対処を遠隔からでも指示できるはず。遠隔診療を活用するという考え方は、十分にあると思います。

 そして医療者の側から見て、ICTやアプリを使って見える要素はすごく多くなっている。日々の血圧記録をアプリで持ってきてくれれば、診療所で数カ月に1回、血圧を測るのとは比べものにならないきめ細かさのチェックができます。食事についても、スマートフォンで撮影してアプリに記録できるようになりました。「塩分の多い食事をしていますね。これじゃあ血圧は下がらないですよ」とか、そういうアドバイスができるようになってきたわけです。

いとう・せいご 1993年順天堂大学医学部卒業。虎の門病院で研修後、順天堂大学医学部循環器内科学講座、米ロチェスター大学 心臓血管研究所などを経て、2009年順天堂大学医学部循環器内科学講座 准教授。2013年から三菱商事 診療所。2016年4月から現職。順天堂大学医学部循環器内科学講座 非常勤講師を兼務。<br>わき・かよ 1997年横浜市立大学医学部卒業。2003年東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程卒業。2004年米ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院修士課程卒業。同年、米テラサキファウンデーション・ラボラトリー客員研究員。2007年東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科 特任助教。2010年東京大学大学院医学系研究科健康空間情報学講座 特任助教。2015年1月から現職。
いとう・せいご 1993年順天堂大学医学部卒業。虎の門病院で研修後、順天堂大学医学部循環器内科学講座、米ロチェスター大学 心臓血管研究所などを経て、2009年順天堂大学医学部循環器内科学講座 准教授。2013年から三菱商事 診療所。2016年4月から現職。順天堂大学医学部循環器内科学講座 非常勤講師を兼務。
わき・かよ 1997年横浜市立大学医学部卒業。2003年東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程卒業。2004年米ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院修士課程卒業。同年、米テラサキファウンデーション・ラボラトリー客員研究員。2007年東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科 特任助教。2010年東京大学大学院医学系研究科健康空間情報学講座 特任助教。2015年1月から現職。
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 データ入力の手間をもっと省けると、こうしたツールはより使いやすくなるのかもしれません。知らないうちにデータがたまっていくという形です。それを実際にやることの良し悪しは別として、例えば朝、出社して自分の席に着くと、心拍数などを自動計測してその日の健康状態をチェックできる。そんな仕組みも不可能ではないですよね。一方で、個人情報を含めてセキュリティーをどう担保していくかは今後の課題になると考えています。

 電子お薬手帳もその一例でしょうが、これからは医療情報の多くを個人が持ち歩き、健康管理に活用する時代が来る。医療機関に閉じ込められてきたデータが、個人のもとへ来るという流れが確実にあります。これによって、ICTが医療そのもののあり方を変えていく。そう考えています。