「薬剤師」の力に着目

 “顔の見える相手”として、脇氏が注目したのが薬剤師という存在だ。薬剤師は「患者との接触機会が多く、患者の状態をよく把握している」(同氏)。

 実際、かかりつけ薬剤師・薬局制度および健康サポート薬局制度が2016年に始まるなど、健康管理のサポート役として薬剤師への期待はにわかに高まってきている。

 生活習慣病のコントロールにおいて適切な服薬が重要な役割を果たすことも、薬剤師に着目した大きな理由だ。「医師の指示通りに服薬していない患者は多い。特に、高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、自覚症状が乏しいだけに服薬への意識が低くなりやすい」と脇氏は話す。薬剤師によるサポートが加わることで、患者の服薬遵守(アドヒアランス)への意識を高めやすくなると考えた。

 薬剤師をキーパーソンとした新しいICT活用のあり方を検証するために、脇氏は調剤薬局大手の日本調剤とタッグを組んだ。2016年末に両者が着手した研究では、GlucoNoteと日本調剤の電子お薬手帳「お薬手帳プラス」を連携させ、ここにかかりつけ薬剤師による対面サポートを組み合わせて、患者の疾病管理を支援する(図3)。お薬手帳プラスは日本調剤が独自に開発した電子お薬手帳で、スマートフォンなどで服薬の管理や各種健康管理ができるのが特徴だ。

図3●ICTと人の両面からのサポートを活用して東京大学と日本調剤が取り組む研究のスキーム
図3●ICTと人の両面からのサポートを活用して東京大学と日本調剤が取り組む研究のスキーム
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 調剤薬局という“場”、薬剤師、そしてICTを連携させることが、患者やその予備群のアドヒアランス改善や疾病コントロールにどのような効果をもたらすのか。それを今回の研究では検証する。

神奈川県で実証へ

 脇氏らは、まずは神奈川県をフィールドに実証を始めたい考え。日本調剤と同県で実施するアプリ利用意向のアンケート調査などを基に、対象者の絞り込みなどを行っていくという。GlucoNoteとお薬手帳プラスの間で服薬情報を一部共有できるようにするなどの連携も進めていく。

 かかりつけ薬剤師・薬局は「その役割がまだ標準化されていない。今回の研究では薬剤師の業務負荷を増やさないように気をつけながら、かかりつけ薬剤師・薬局の具体的な姿を示すことにもつなげたい」と脇氏は話している。