スマートフォンアプリと電子お薬手帳、そして薬剤師。3者を組み合わせ、生活習慣病患者やその予備群に対する生活改善や重症化予防の効果を検証する。東京大学が、調剤薬局を舞台にそんな試みを始めた(図1)。

図1●疾病管理支援の新しいスキームをつくる
図1●疾病管理支援の新しいスキームをつくる
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 生活習慣病患者が自らの健康管理に積極的に関われるようにすることで、重症化予防につなげる――。東京大学 特任准教授(大学院医学系研究科 健康空間情報学講座/医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)の脇嘉代氏はかねて、ICTを活用してそんな医療を実現することを目指してきた。

 力を入れてきた取り組みの1つが、東京大学がNTTドコモとの社会連携講座で開発した「DialBetics(ダイアルべティックス)」を用いた実証研究である。DialBeticsは、2型糖尿病のコントロールに影響する運動や食事などの生活習慣と、血糖値などの測定結果の記録をスマートフォンで支援するシステム。生活習慣が血糖値や血圧、体重にどう影響するかを解析したり、患者が生活習慣の見直しに利用したりできる。一部、自動での結果評価機能を備えるものの、あくまでも医師による確認やフィードバックを前提としたシステムだ。

 脇氏らはDialBeticsを使い、2型糖尿病患者を対象とした臨床研究を実施。同システムを使うことが食生活などの行動変容につながったり、HbA1cの値を改善したりする効果を実証してきた。

「継続率」の課題に直面

 そしてこの成果を基に、「GlucoNote(グルコノート)」と呼ぶスマートフォンアプリを開発した(図2)。GlucoNoteは2型糖尿病患者やその予備群を対象とした自己管理支援アプリである。DialBeticsの基本的な機能を踏襲しながらも、医師によるフィードバックを前提とせず幅広いユーザーを対象とすることで、大規模な臨床研究に使えるようにした。

図2●東京大学が開発した疾病自己管理のためのスマートフォンアプリ「GlucoNote」(写真:東京大学)
図2●東京大学が開発した疾病自己管理のためのスマートフォンアプリ「GlucoNote」(写真:東京大学)
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 脇氏らはこのGlucoNoteを使った臨床研究を2016年3月に開始した。ところがしばらくして、課題に直面する。DialBeticsに比べてアプリ利用の継続率が低いことが分かってきたのである。理由として考えられたのが「完全にICT化し、(医師などの)顔の見えない中で患者に自己努力を続けてもらうことは難しい」(同氏)ということ。そこで同氏は新たな研究の着手を決めた。カギは、アプリ利用者などにとって「対面またはそれを意識させる要素」(同氏)を取り入れることである。