第103回品質管理シンポジウム」(日本科学技術連盟主催、2016年12月1~3日)において、トヨタ自動車社長の豊田章男氏と「日経プラス10」メインキャスターの小谷真生子氏の対談が特別企画として実施された。「自動車の明るいミライへの挑戦」と題して対談は、BSジャパンで「トヨタの人づくり 豊田章男の闘い」として放映された番組の一部を会場で流しながら進められた。第3回は、ドイツのニュルブルクリンクで開催された24時間耐久レースへの参加と、それを通じた技術者育成の映像を受けて始まった。

小谷氏 2016年のニュルブルクリンクの24時間耐久レースでは、参加させた3台のうちの1台が完走できませんでした。その188号車の最後に乗るはずだったのが章男社長だったわけですよね。社長ご自身が、ドライバーの1人として参加される意図はなんですか。

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豊田氏 まず、私自身が技術者でありたいからです。私が会社のテストドライバーの資格を取ったのは、技術者との会話のやり方を知るためでした。彼らのリーダー格であるマスタードライバーのに「運転の仕方も知らない人に、ああだこうだと言われたくない」と指摘されたのがきっかけです。「運転の仕方をきちんと学んでくれ。なんだったら教えてやる」と言われてその気になりました。

 そうやってドライビングのトレーニングを続けている中で社長になりました。リーマンショックやリコール問題などを経てトヨタの課題も明らかになりました。そのときに、こういう活動を自分がなぜ続けているのかと改めて考えてみたのです。

私自身が命を賭けている姿を見せるしかなかった

 トヨタ自動車という大所帯の会社を――誤解を恐れずに言えば――お金づくりの会社からクルマづくりの会社に短期間でシフトさせる必要がありました。会社を引き継いだ自分として、ポンと方向性を変えられる方法は、私自身が命を賭けている姿を見せるしかなかったのです。

 プロの技術者とはいえレースに関しては素人の社員が、メカニックとしてチームに加わるやり方にも反発がありました。プロのレーサーから「こんな素人に俺たちの命を守らせる気か」とハッキリ言われたこともある。しかし参加している社員は真剣です。自分の持ち場において絶対にトラブルがないように絶対後悔しないようにと仕事に取り組んでいます。その経験で育まれた自信は何事にも代えがたいのです。