トヨタ自動車社長の豊田章男氏と「日経プラス10」メインキャスターの小谷真生子氏の対談が実施された。「第103回品質管理シンポジウム」(日本科学技術連盟主催、2016年12月1~3日)の特別企画で「自動車の明るいミライへの挑戦」と題したこの対談は、BSジャパンで「トヨタの人づくり 豊田章男の闘い」として放映された番組の一部を会場で上映し、それについて小谷氏が豊田社長に話を聞く形で進められた。
 最初に流されたのは、豊田氏が涙を流した映像だ。プリウスのリコール問題に関連し、2010年2月に実施された米国議会の公聴会の様子を映し、その際に全米から集まったトヨタの販売店スタッフの激励に対してを受けて社長が男泣きする映像を会場に見せ、対談が始まった。
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小谷氏 あの涙は何故?

豊田氏 あれは悔しい、悲しいという涙ではなくて、単純にうれしくて流れた涙だったんです。私は日本の大学を出てからアメリカの大学も出て。最初の就職先もアメリカでしたからアメリカのことは大変好きでした。しかし、4時間近くの公聴会を経験して「これは僕の思っているアメリカじゃない」と思わずにはいられなかった。そんな中で、販売店スタッフから「100%、あなたをサポートするよ」と声を掛けられて、つい涙が出てしまったのです。

 公聴会のために日本を出国するとき、変な言い方ですけど、「これは私を辞めさせるゲームなのではないか」と内心思っていました。社長は1年もたなかったなあ、1年もたかなかったことに対して喜ばれる方もずいぶんと多いのだろうな、と(疑っていた)。

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「しんがり役」としてトヨタを守れるなら、社長をやめてもよいかと

 その一方でトヨタ自動車という会社を自分がどう思っているのかを改めて考えてみました。自分が社長をやる/やらないを別にしてね。するとやはり私はトヨタ自動車が大好きだったのですよ。トヨタ自動車という会社なしに私は自分の人生は語れません。こんなに大好きな、自分をここまでしてくれたトヨタ自動車を、生意気な言い方ですけれども「しんがり役」として守れるのであれば、仮に社長をやめるにしてもトヨタの役に立てるのかな、とも思ったんです。

 それまで、やれ創業家だ、おぼっちゃんだ、苦労知らずだと、そんなことばかり言われてきました。自分はトヨタにとって厄介者なのかなと僻んだりもしていた。そんな厄介者の自分に大好きなトヨタを守る役割があったと気付いたのは――喜ばしいとまでは言いませんけど――(会社の)役に立てるのは単純にうれしかった。