日常会話を機械学習で分析

 一方、慶應義塾大学などのグループが進めているのが、医師との日常会話から認知症の重症度を評価する研究開発である(関連記事1)。AMED(日本医療研究開発機構)のプロジェクトとして、アドバンスト・メディアやFRONTEOヘルスケア、システムフレンド、セムコ・テクノ、ソフトバンク、日本マイクロソフトと共同開発している。

 これは、患者が医師と会話する際に、話し言葉に現れる認知症の症状を人工知能を使って定量化するシステム。会話のテキスト分析には、FRONTEOが開発した人工知能エンジン「KIBIT」をはじめとした機械学習を使用する。将来は、医師の問診を支援するツールとして活用することを想定する。2019年までにプロトタイプを完成させ、医療機器の許認可を受けるための治験を開始することを目指している。

ICTを活用した認知症の診療支援技術研究開発プロジェクト概要図(画像提供:FRONTEO)
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慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 専任講師の岸本泰士郎氏
慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 専任講師の岸本泰士郎氏
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 現在は会話データと併せて神経心理検査の点数もKIBITに学習させ、重症度の判定ができるかを検証している。これまでに、アルツハイマー型認知症の患者やMCIの状態の人、健常者などの会話データを200例取得。実証は途中段階だが、「重症度を推定できる可能性がありそうだ」と慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 専任講師の岸本泰士郎氏は感触を述べる。

 日常会話という、いわゆる話し言葉に目を付けたのは二つの理由がある。一つは、「記憶障害などの症状は出ていないけれど脳内に異常物質が蓄積しているという段階で評価できるマーカーとして使えないかと期待している」(岸本氏)ため。認知機能は低下しているが日常生活に支障がないMCIの状態を捉えることを目指している。

 もう一つは、本来の個人の状態を反映しやすいため。現在の認知症検査で行われている神経心理検査は、何度も同じ検査を行っていると質問の傾向を覚えてしまったり準備ができてしまったりという、練習効果が問題視されている。医師との日常会話であれば、「患者の状態をそのまま映し出せる可能性が高い」(岸本氏)というわけだ。