国内の電気事業者は日々、日本卸電力取引所(JEPX)で電力を売買する。電力市場における取引量や取引価格は自由化の姿を映す鏡のようなものだ。専門誌「日経エネルギーNext」では、コラム「JEPX便り」で専門家が電力市場の動静を読み解いてきた。本コラムをWebで再スタートするに当たって、まずは番外編として全面自由化1年目の電力市場を振り返りつつ、日本が抱える問題を押さえておきたい。

 1年前の2016年4月、電力全面自由化は電力市場の異様な動きとともに幕が開いた。東日本エリア(関東・東北・北海道)で価格高騰(スパイク)が頻出したのだ。

 JEPXが運営する電力市場の中で取引量が一番多いのが「前日スポット市場」である。実際に電力を供給する「受け渡し日」の前日午前中に取引が行われる。通常、電力市場といえばこのスポット市場を指すことが多い。全面自由化を契機に参入した新興の新電力の場合、翌日の供給電力の多くをここで調達しているというケースも少なくない。

 スポット市場の平均価格は、2013年冬季をピークに2016年6月ころまで原油価格の下落などを背景に下降傾向をたどっていた。振り返れば、全面自由化直後の2016年4~5月はほぼ底値にあったといっていい。この頃、1日の平均価格は1kW当たり10円を下回り、7~8円という水準だった。ところが、日や時間帯によって異常な高値をつける事態が頻繁に発生するようになったのである。

自由化1年目は価格高騰が頻出
自由化1年目は価格高騰が頻出
2016年4月28日の電力市場価格推移

荒れる市場、価格が暴騰する時間帯が頻繁に発生

 電力は1日24時間を48個に分割した30分を1コマとして取引する。ゴールデンウィークを翌日に控えた昨年の4月28日、多くの市場関係者は目を疑った。

 東日本エリアで13時30分から17時まで45円/kWhを超えるなど、異常な高値が続発した。異常だったのはこの日だけではない。東京電力ホールディングス(HD)管内の場合で、4月から6月末までの91日間に最高値が20円/kWh以上をつけた日が28日にのぼった。

 全面自由化を契機に新規参入者の買い入札が増えるなど市場環境の変化は想定された。とはいえ、この荒れ狂いように多くの市場参加者が困惑した。「経験の浅い新規参入組が異常な買い方をしているのではないか」など、様々な憶測が飛び交った。電力の仕入れを市場に頼る割合が高い新電力の中には、経営に大きな打撃を被ったところも少なくなかっただろう。

 そうした混乱が続いていた昨年の6月、驚愕の事実が発覚した。電力・ガス取引監視等委員会が「ある電気事業者が予備力を二重に確保している」と公表したのである。「予備力」とは、発電機の急な故障や想定外の需要の増大などに備えて待機させておく電源(発電設備)をいう。大手電力は需要量の一定割合を予備力として確保するルールが課されている。