「国の意向もあり出資したという事実が非常に重要」。ある東電関係者は、こう明かす。となれば、わずか3%、7000万円の出資にも合点がいく。東電グループの再建計画「新・総合特別事業計画」が3月末に区切りを迎えるタイミングであったことも、矢継ぎ早に出資を決めたことと相反しない(モイクサへの出資は3月31日で、4月4日は発表日)。

 日本は今後、人口減少や省エネの進展、分散電源の導入拡大によって、電力需要は減少していく。これは抗いようのない事実だ。であるならば、大手電力会社は長年培ってきたビジネスモデルを変革していくことが必要だろう。

 東電HDのモイクサへの出資が、仮に「出資ありき」の意思決定だったとしても、近い将来、モイクサのようなビジネスモデルへの取り組みを求められる日が必ずやってくる。既存ビジネスによる売り上げを失うことがあったとしても、企業としてさらなる成長を求めるのであれば避けては通れない道だ。そして、次なる日本のエネルギーシステムを作っていくためにも、東電をはじめとする大手電力が担うべき役割は大きい。大手電力自らが、次なる扉を拓くべき時が来ているのではないだろうか。

 欧州では、再生可能エネルギーの急拡大によって、大手電力各社の火力発電所の稼働率が低下。不良資産化しつつある発電事業によって、業績の低迷も著しい。もし、大手電力が自ら再エネの導入に舵を切っていたら、今頃は再エネによる市場拡大の果実をその手に収めていた可能性は高い。日本も同じだ。今まさに日本の電力システムは転換期を迎えようとしている。大手電力が自己変革すべき時期は、すぐそこまできている。

 1つ、将来に向けた前向きな動きもある。東電HDは4月、新組織を設置した。その名も「リソースアグリゲーション推進室」。リソースアグリゲーションとは、分散電源などを活用した調整力のことを指す。まさに、VPP活用を示唆する組織名だ。原発事故を経て、変化を求められている王者東電の今後に注目したい。

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